Liberty連載(1934-7-7〜9-15) 私は創元文庫で読了。
奇妙な花嫁 (創元推理文庫 127-5 ペリー・メイスン・シリーズ)
前回の引きは(といっても創元文庫だと何故か第6話『義眼』についてる。米国で最初のペイパーバックの発行順が第4話まで同じだが、その後は#7→#6→#5→#9→#11→#10→#8の順でそれに合わせて最後の引き部分を入れ替えたり削除したりと一貫性のない編集をしたのが原因。新訳するときは米国初版の引きでお願いしますよ、早川さん創元さん)
デ「きっと新婚です」
ペ「なぜ?」
デ「衣装は新調、指輪を新しいおもちゃみたいにいじってました」
ペ「用件は?」
デ「言いません。でも、ここでは離婚訴訟を扱うのか、死体が無いと罪にならないのか、とか、いろんなことを聞き出そうとするんです」
ペ「奇妙な花嫁(curious bride)か」
curiousは「知りたがり」でしょう。『好奇心の強い花嫁』(なんかエロっぽい。『私は好奇心の強い女』ってスウェーデン映画があったねえ…(←話題が古いよ!おじいちゃん))
さて、意地悪メイスンが冷たい対応をして依頼人が帰っちゃう。なにか女の態度にカチンと来ちゃったんだろうね。でもメイスンはすぐに反省して依頼人を探すことに… というのが発端。
導入部分が素晴らしく、ツカミが良ければ後はESGお得意の策略とスリルとピンチと逆転の世界。かなりの危ない橋を渡りきる手腕(やり過ぎです…)が見もの。そしてメイスンが泣く!(シリーズ唯一の場面。お見逃しなく!)
銃は32口径コルト自動拳銃、シリアル3894621が登場。なお、WWIIのM1911A1を除きコルト社の拳銃で7桁シリアルは実在しないはず。(ESGの他の作品ではほぼ全てが実在のシリアルを使ってるので、ここは単純ミスだろう) 389462だとするとM1903 Pocket Hammerless, 1921年製が該当。
価値換算についても一応触れておこう。依頼人が取り出した内金50ドルは米国消費者物価指数基準1934/2020(19.24倍)当時の$1=現在2072円なので約10万円。結構大金だ。やはり換算しないとここら辺のニュアンスがわからないと思う。
なお、本作でカリフォルニア州の事件だというのが初めて明言された。(第16章) 第1話から第4話までESGはメイスン・シリーズの舞台について明言していない(原文では。翻訳ではお節介な訳者が補ってることもあるので注意) 。ここまで徹底してるのだから故意。メイスン事務所がどこにあるかの言及もしばらく後まで書いていないほどだ(まあ読めばバレバレだと思うが、明言はしてないんだよね… 原文を全文検索して初めて気づきました)。
最後にガンマニア(にわか)から一言。創元文庫ではメイスンがピストルを調べる場面は誤訳がいっぱい。「鋼鉄製の先の丸い弾丸(steeljacketed, softnosed bullets)」ソフトノーズ弾は確かに先は丸いけどこれじゃラウンドノーズ弾と確実に誤解されちゃう。金属で周りを覆い先端は鉛が露出している弾丸(一般的にはソフトポイント弾という)のこと。「メイスンはマガジン・クリップをカチッとピストルにはめこむと安全装置をかけて(He snaped the magazine clip back into the gun, close the mechanism, replaced the ejected shell in the firing chamber)」メカニズムを閉じた、とはスライドを戻した、ということ。訳されてない後段は(スライドが戻ると同時に、調べるために薬室から弾き出した銃弾が)「薬室に再び補給された」という意味。(わかりにくいかな?銃の安全動作なので銃を扱う人にとって初歩で必須の知識)
2020.07.22(シミルボン公開)
[以下2023-8-9追記]
Webで探すとLiberty誌のイラストが2枚見つかった。
イラストはFrank Godwin、良いねえ。全部見てみたいなあ…