私は創元文庫で読了。
義眼殺人事件 (創元推理文庫 127-6 ペリー・メイスン・シリーズ)
原題の直訳は『義眼の事件』だが大抵の翻訳は「殺人事件」となっている。語呂の問題かな?
[2023-8-11追記]
原タイトルのcounterfeit eyeの意味をあらためて調べてみたら、結構意外な発見があった。
本書でcounterfeit (eye)と言ってるところ(11ヶ所)を調べると全て「偽の」義眼のことを指している。新訳は『偽物の眼球』でお願いします。
<冒頭のメイスン とデラの会話から>
…ガラスの目(the glass eye)の男はどうした?
…君はガラスの義眼(the glass eye)を見抜ける?
…義眼(an artificial eye)なんてすぐ見抜けると思ってました…
…その義眼の男(the man with the glass eye)をよこしてくれ… 義眼(a case involving a glass eye)のからむ事件なんて初めてだ…
[追記終り]
前回の引きは、米国初版だけにしか無いので、後年のリプリントしか手に入らなかったらしい日本では、どうやら翻訳されてないようだ。まあ中身は想像は出来る。デラが、義眼のことで会いたいという依頼人が来ました、と入ってきて、義眼関係は初めてだ、と興味を示すメイスン… みたいな感じだろう。(早川さん、創元さん、新版を出すときは米国初版による引きでお願いしますよ!)
冒頭はミニ義眼講座。依頼人が帰る時、偶然、別の関係者と事務所で出くわしてしまう。このお姉さんがちょっと泣かせるキャラでねえ。27歳の重役秘書。週給40ドル(米国消費者物価指数基準1935/2020(18.82倍)当時の$1=現在2027円、月額だと35万円。これは仕事から考えると相場より安いらしく、どうやら大不況のあおりで減給になってるみたい)。田舎の母親に毎月70ドル(=14万円)の仕送りをしてる孝行娘、でも、とある事情で、やっと貯めた1500ドル(=304万円)が水の泡に… 家族の犠牲になり身を粉にして働いてる健気なお嬢さんなんだ。
メイスンは何か悪いことを企み、ドレイクを怯えさせる。タフだが間抜けなホルコム刑事とはドタバタ劇を演じ、初登場のシリーズ最大の敵役、ハミルトン・バーガーは後年の「メイスンが憎すぎて事件の真相なんて二の次」の狂人ではなく、無実の犯人を死刑にしちゃうんじゃないか、と悩むとてもまともなD.A.(地方検事)、こういうキャラのままでいて欲しかった。
メイスンの策略は無茶(いけないことを平然とやっちゃう)、でも、この位のメチャクチャが好き。
裁判では派手に真相を突きつけるメイスン。初期の法廷シーンは型破りなのが多くてとても面白い。
銃は3丁。一つは38口径コルト・ポリスポジティブ(創元文庫では「警察用の38口径のコルト」、「コルト警察拳銃」と表記。コルト社には「オフィシャルポリス」という拳銃もあるので、ここは原文通り「ポリスポジティブ」として欲しい)、二つ目は38口径S&Wリボルバー、三つ目はショルダーホルスターに入った型式不明の拳銃。
幕切れにもオマケの45口径リボルバーが登場。ホルコムの見せ場あり。
創元文庫の次回予告は『奇妙な花嫁』(米国ペイパーバックによるもの)、角川文庫(能島武文訳)だと正しく『門番の飼猫』になってる。(グーテンベルク21も能島訳なので、角川版と同じか)
なお、本作にも実在の地名は記されていない。Californiaという単語すら出てこない。(全文検索って便利だね)
2020.07.27(シミルボン公開)