十六 × 二十

本について。時々他のネタも。心臓が悪いのでコメント不可です…

ペリー・メイスン第6話。1935年4月出版★★★★☆

 

 

私は創元文庫で読了。

義眼殺人事件 (創元推理文庫 127-6 ペリー・メイスン・シリーズ)

原題の直訳は『義眼の事件』だが大抵の翻訳は「殺人事件」となっている。語呂の問題かな?

 

[2023-8-11追記]

原タイトルのcounterfeit eyeの意味をあらためて調べてみたら、結構意外な発見があった。

本書でcounterfeit (eye)と言ってるところ(11ヶ所)を調べると全て「偽の」義眼のことを指している。新訳は『偽物の眼球』でお願いします。

<冒頭のメイスン とデラの会話から>

ガラスの目(the glass eye)の男はどうした?

君はガラスの義眼(the glass eye)を見抜ける?

義眼(an artificial eye)なんてすぐ見抜けると思ってました

その義眼の男(the man with the glass eye)をよこしてくれ義眼(a case involving a glass eye)のからむ事件なんて初めてだ

[追記終り]


前回の引きは、米国初版だけにしか無いので、後年のリプリントしか手に入らなかったらしい日本では、どうやら翻訳されてないようだ。まあ中身は想像は出来る。デラが、義眼のことで会いたいという依頼人が来ました、と入ってきて、義眼関係は初めてだ、と興味を示すメイスンみたいな感じだろう。(早川さん、創元さん、新版を出すときは米国初版による引きでお願いしますよ!)


冒頭はミニ義眼講座。依頼人が帰る時、偶然、別の関係者と事務所で出くわしてしまう。このお姉さんがちょっと泣かせるキャラでねえ。27歳の重役秘書。週給40ドル(米国消費者物価指数基準1935/2020(18.82)当時の$1=現在2027円、月額だと35万円。これは仕事から考えると相場より安いらしく、どうやら大不況のあおりで減給になってるみたい)。田舎の母親に毎月70ドル(=14万円)の仕送りをしてる孝行娘、でも、とある事情で、やっと貯めた1500ドル(=304万円)が水の泡に家族の犠牲になり身を粉にして働いてる健気なお嬢さんなんだ。


メイスンは何か悪いことを企み、ドレイクを怯えさせる。タフだが間抜けなホルコム刑事とはドタバタ劇を演じ、初登場のシリーズ最大の敵役、ハミルトン・バーガーは後年の「メイスンが憎すぎて事件の真相なんて二の次」の狂人ではなく、無実の犯人を死刑にしちゃうんじゃないか、と悩むとてもまともなD.A.(地方検事)、こういうキャラのままでいて欲しかった。
メイスンの策略は無茶(いけないことを平然とやっちゃう)、でも、この位のメチャクチャが好き。
裁判では派手に真相を突きつけるメイスン。初期の法廷シーンは型破りなのが多くてとても面白い。


銃は3丁。一つは38口径コルト・ポリスポジティブ(創元文庫では「警察用の38口径のコルト」、「コルト警察拳銃」と表記。コルト社には「オフィシャルポリス」という拳銃もあるので、ここは原文通り「ポリスポジティブ」として欲しい)、二つ目は38口径S&Wリボルバー、三つ目はショルダーホルスターに入った型式不明の拳銃。
幕切れにもオマケの45口径リボルバーが登場。ホルコムの見せ場あり。


創元文庫の次回予告は『奇妙な花嫁』(米国ペイパーバックによるもの)、角川文庫(能島武文訳)だと正しく『門番の飼猫』になってる。(グーテンベルク21も能島訳なので、角川版と同じか)
なお、本作にも実在の地名は記されていない。Californiaという単語すら出てこない。(全文検索って便利だね)

2020.07.27(シミルボン公開)