十六 × 二十

本について。時々他のネタも。心臓が悪いのでコメント不可です…

飛び道具とは… 卑怯って何故?

 

 

ヒーローが「いざ、尋常に勝負!」って台詞、完全にズルい手でやられるフラグ。
悪党はニヤリと笑って、懐に隠し持ったピストルをおもむろに取り出し、容赦なくBANG!
うう、と崩れ落ちるヒーロー。飛び道具とは卑怯なり…
私はこのシチュエーションの初出が知りたい。
飛び道具、というのもピストルだけを指すのか? 例えば弓矢も相当レンジ外からの攻撃だが、飛び道具とも卑怯ともあまり言われないような気がする。(飛び道具には弓矢を含む、という説はあるが、こーゆーシチュエーションではほとんど使われないよね。遠くから手下が矢を放つ、という場面を観たことある気もするけど…)
鈴之助にも第二巻で、当然のようにその台詞が出てくる(連載は1954年開始。使用銃はライフル)。何となく大衆演劇とか活劇映画とかが最初に使って広まったような雰囲気を持つセリフだと思う。
ピストルは幕末にはもう輸入されており、龍馬の頃に遡る。(↓S&W No.2。以下、図像はWikiから)

 

鉄砲なら種子島の戦国時代だ。

 

ところで、卑怯って

 

永沢くんが藤木くんをいたぶる場面が思い浮かんじゃうが、武士道で、もっとも忌み嫌われる言葉のようだ。什の掟(会津)でも虚言に次ぐ禁止項目となっている。
だが何故、兵器として古い歴史がある鉄砲は「飛び道具」で「卑怯」なのか。
こーゆーのが原因?


(ざっくりまとめると、日本刀の神聖を守るために鉄砲のイメージを貶めてきた。実は戦国時代に鉄砲は大活躍してたってことを実証した当時画期的な本)
Web検索で(これは上の本とは無関係なネタだが)

 

飛び道具を「卑怯」と言っていたのは、実は西欧の騎士たちでした。西欧騎士にとって鎧の構造上弓は扱いづらく、値段も安かったため階級差を表せなかった為だとか

 

というのを拾ったが、原典を残念ながら書いてくれてない。中世英国で活躍したLongbow(14世紀)あたり? 負けたフランス人が吐き捨てそう。ただし「卑怯」の概念はどうか。
That’s a trick、unfair、meanと言っても、何だか非難の程度が軽い気がする。
卑怯は、もっと人格を完全否定する感じで、英語ならcowardとかliarあたりか。(←英語のニュアンスなんて、実は良くわからんで書いてます)
でも闘いにおいて新兵器を「卑怯」呼ばわりするのには違和感あるよね。工夫をして何が悪いのか。冒頭のシーンがスポーツとしての対決なら、ルール上、イーブンな武器でなければ卑怯だろうが、勝つか負けるか、善と悪の必死な闘いなんだから、Love&Warの例外原則が適用されるべきだろう。
私はunfairの語には英国エリートの奢りを嗅ぎ取る。表面上は同じルールのもとでの試合は公正に見えるが、一皮剥けば、訓練とか栄養とかの基礎項目でエリートは貧乏人に対し圧倒的に有利だろう。自由貿易なんてのも豊富な富を背景にした隠れた有利さをもって英米が途上国を食い物にする言い訳にしか聞こえない。
では「卑怯」はどうか。これは日本人の同質性を好む習性に根ざした語ではないか。つまり他の子が持ってないものを持ってる子はズルいのだ。それを使って勝つのもズルい行為だ。ズルさを故意に利用するのが「卑怯」と説明すれば、何か腑におちませんか?
まあ、今日はこんなところで…
※ ここまで書いた後、『三省堂類語新辞典』の飯間浩明さんのブログでこんなのを拾った。

 

「卑怯」の用例として「飛び道具とは卑怯千万」という文句をぜひ入れたかったのですが、これが何の文句だか分かりませんでした。図書館で関連しそうな本を探し回って、結局、昔の小学国語読本に入っていたことを突き止めました(年配の方なら先刻ご承知のことかもしれません)。
尼子方の秋上伊織介がそれを見て、「一騎討{いっきうち}に、飛道具とは卑怯千万。」(小学国語読本・三日月の影)

 

昭和12年(1937)採用かな。でもこれ、オリジナルじゃなくて、元がありそうだと思いません?
さらに調べると上記の場面は、山中幸盛・品川将員の一騎討の話なので、ここの飛び道具は「大弓」。wikiの書き方だとこのセリフ (一騎討ちの戦いに飛び道具を使用することは、臆病者の所業だ)の出典は『雲陽軍実記』 天正8年(1580)らしい… これを確認すれば一件落着か。

(2020-7-21 18:11追記)
国会図書館のデジタルライブラリーに上記の実記があった。ダウンロードしてみると「望み懸て一騎合合戦に飛道具を被持候事、臆病に見へ候」と書かれていた。卑怯ではなく「臆病」という評価だったのね… 前後の経緯はwiki山中幸盛・品川将員の一騎討」の項目参照。お互いと両軍が納得して一対一で戦ってるのでスポーツっぽい感じ。(殺し合いだが…)

2020.07.21(シミルボン公開)