十六 × 二十

本について。時々他のネタも。心臓が悪いのでコメント不可です…

エービー シャラララ エビ ウォウォウ

Carpenters "Yersterday Once More"より

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ジョン・ロード『電話の声』(1948)を読んでたら懐かしいAボタンが出てきた。

A/Bボタン式の公衆電話は、数年前ディクスン・カー『猫と鼠の殺人』(1941)で初めて見かけて、いろいろ調べたからだ。

当時、英国の公衆電話には、料金課金用にA/Bボタンが付いていた。

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1925年から導入され、その前は利用者が備え付けのただの箱に任意でコインを入れる仕組みだったと何かで読んだ記憶がある。農産物を道路脇で無人販売するようなイメージ。人を信頼した仕組みだったんだね。

『猫と鼠の殺人』(p188)では交換手が電話の掛け手にこう言っている。

 

先方がでましたので、五ベンスお入れください。そしてAボタンを押してからお話しください。(Here is your party. Deposit fivepence, please. Then press Button A and speak.)

 

普通の手順では、まず硬貨を入れて、交換手に相手を告げ、相手と繋がってからAボタンを押すと、こちらの声が相手に聞こえるようになる。それと同時に料金が機械に落ちる。Aボタンを押さないままだと、相手の声だけが聞こえ、こちらの声が届かない。そのままの状態でBボタンを押すと、接続が切れ、入れたコインが戻ってくる。相手と繋がらない場合もBボタンでコインを戻す。なお相手と繋がる前にAボタンを押しても何の効果もない。Aボタンは電話の接続が確保されてから、自分の声が相手に伝わるようにするボタンなのだ。

(当時は3ペンスで時間無制限が普通料金だった。この小説の場合、遠距離通話だったので、繋がってから交換手が料金を指示したのだろう)

 

『電話の声』(p62)ではこういうセリフがある。

 

Aボタンの要点といったら、ただ、相手の声を聞くまでは押してはいけないということだけだ。普通なら、それを押すのが早過ぎたという場合よりも、まるきりAボタンを押すのを忘れてしまう場合の方が、はるかにありうるのだ。

 

公衆電話の場所を特定出来た、という説明のなかで、唐突にこのセリフが出てくるので、何のこっちゃ?と思ったが、実は『電話の声』は実際の未解決事件を下敷きにしており、モデルとなった「ジュリア・ウォレス殺人事件」では殺人の前日に公衆電話から被害者の夫に呼び出し電話がかかっている。

この時、掛け手は、交換手に「Aボタンを押したが、繋がらないぞ」と苦情を言っているのだ(苦情の後、一手間あって何とか電話は正常に繋がった。多分、掛け手は相手が出る前にAボタンを押してしまったのだろう)。苦情は記録に残す規則だったので、この電話がどこから掛けられたか、いつ掛けられたかが、交換局に記録された。掛け手(犯人と思われる)は公衆電話に不慣れだったのか、意図的に記録を残したのか、ちょっとした謎となっている(セイヤーズ『ピーター卿の事件簿Ⅱ 顔のない男』に犯罪実話「ジュリア・ウォレス殺し」が収録されてるので、事件の詳しいことはそちらを参照のこと)。

 

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さてAボタンはこれだが、私はずっとBボタンを誤解していた。

 

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横に突き出てる銀色のがBボタン。四角に囲まれた右端の真ん中の白いところだと思っていた… (白い矢印だったのね)

 

このA/Bボタン式は1960年ごろから新方式に移行したようだ。新しい方式は、電話がつながったらコインのスロットが開くので、急いでコインを投入する仕組み。

 

A/Bボタン式の時代、公衆電話は子供の小遣い稼ぎのネタになっていた。不通の時、Bボタンを押さずに電話ボックスを出てしまう人が結構いるらしく、空いている公衆電話があったら、まずBボタンを押す。運が良ければ数ペンス稼げるのだ(当時の1ペンスは1950年なら35円、料金3ペンスだったので100円の稼ぎ)。