十六 × 二十

本について。時々他のネタも。心臓が悪いのでコメント不可です…

ペリー・メイスン第9話。1936年9月出版。★★★★☆

シミルボン投稿日 2021.09.05

どもりの主教 (ハヤカワ・ミステリ文庫 3-1)(1981) 表紙:深井国

グーテンベルク21版はハヤカワ文庫と同じく、田中西二郎訳。冒頭を確認したが、同じ版のようだ。ところで、国さんの表紙画の女性は誰のつもりなんだろう。駒もビショップじゃなくてナイトだし

ペリー・メイスン・シリーズが時々物足りなく思えるのは、登場人物への突き放した眼差しのせいだ。謎が解決し、ハッピー・エンドになったら、もうメイスンの興味は次の事件に移ってしまう。
「良かったね、じゃあバイバイ」という感じ。
なので依頼人が胡散臭いときは、なんか乗れない。事件が混み入ってて、解決が鮮やかでも、ふーん、そうなんだ、で終わっちゃう。
まあ雇われたら、とりあえず忠実に働くよ!というのがメイスンの主義なので、善悪は本質じゃない。勝つか負けるか、がメイン・テーマだ。流石に依頼人が犯罪者だと判明したら、弁護を辞めちゃう、とあらかじめ宣言しているが。

今回の依頼は、まず謎めいてて、そして、悲しい過去が明らかになる。ところが、そこまで話が進んでも、それってメイスンをハメるペテンなのでは?という疑問が拭いきれない、という素晴らしい展開。半信半疑でも手強い敵に立ち向かうメイスン。もし、あの話が真実なら、徹底的に戦ってやる!という態度。本作品が傑作になってるのは、この宙ぶらりんのシチュエーションと虐げられた者の叫びが切実だからだ。

後半の展開はかなり混み入ってて、頭が痛くなるが、でもまあ、ギリギリ成立していると思う。

舞台はサンフランシスコとロサンジェルス。メイスンの赤毛女に対する偏見が凄い(多分作者自身の偏見)。デラとメイスンの素敵なダンス・シーンあり。また、ずぶ濡れのポール・ドレイクに飲み物を「年寄りが先に飲めよ(Age before beauty)」と言ってメイスンが譲るシーンがあって、この感じだとドレイクがメイスンの数歳年上なんだろーな、と思わせる。(シリーズ中、具体的に年齢の上下を言及している場面は無い)

残念ながら、ダウニーJrの私立探偵ペリー・メイスン(2021)は面白くなかった(冒頭を見ただけだが…)。なので、ちょっと期待していた弁護士ペリー・メイスンの復活は無理だと思う。せめて旧テレビシリーズのDVDを発売してくれないかなあ。(多分、シーズン6以前の放送したテープが残って無くて、日本語版を作り直さなきゃいけないんだろうけど…)

なおハヤカワ文庫版は、次へのつなぎが「カナリア事件」(11)になってるが、米国でペイパーバックになった時に、元の初版の「未亡人事件」(10)へのつなぎと差し替えたからだという。

サイト『ミステリの祭典』に本作品のレヴューをあげているが、今回、再読したので、もう少しトリビアを充実させる予定です

ミステリの祭典:どもりの主教