十六 × 二十

本について。時々他のネタも。心臓が悪いのでコメント不可です…

憧れのコンパト鉄路

あ、あ〜あ〜、憧れ〜えのコンパ〜ト鉄路。

国鉄道と言えばコンパートメント。シャーロック・ホームズもワトソン君も乗ってました。

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※左は「銀星号」、右はソーンダイクもの「青いスパンコール」から

 

基本、一室6名掛けの小部屋で、客車1台に複数のコンパートメントがある。左右中央部に外に出入りできる外開きのドアがある。元々は馬車を縦に繋げた作りだったのだろう(下の緑色の客車のイメージ)。なので走行中は別のコンパートメントに出入りが出来ない。密室状態であることから「青いスパンコール(The Blue Sequin)」(初出1908-12)では、最後にコンパートメントから降りた乗客だけにしか殺人の機会はない、と絶対絶命の危機に陥る。ただし、ソーンダイクものでは不可能状況を大袈裟に盛り上げることはしないので、コンパートメントに他の客はいなかった、と書かれているだけ。

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その後、下図のような、側廊(corridor)付きの客車が出来る。

 

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上の写真ではわかりにくいが、内ドアの外に側廊があって外ドアがある。側廊からコンパートメントを撮った構図を探したが見当たらなかった。側廊付き初期型は、側廊なし時代と同様、外に出るドアが各コンパートメントごとに左右に付いていたようである。その後、どうせコンパートメント間を行き来できるのだから、こんなにドアいらないんじゃね?と製造コストも考慮し、客車には出入り用のドアを数か所だけ設定するようになったものと思われる。

側廊がついたことで一番大きなメリットはトイレがあること。平面図を見ると客車の両端に設置されている。側廊無しのコンパートメントならトイレに行くには一回降りてから、別客車の"lavatory carriage"でするしかない(ここら辺、詳細は未確認)。

 

同人誌Re-ClaM第14号(2025-05)掲載のホワイトチャーチ「側廊特急の謎(The Mystery of the Corridor Express)」(初出1899-04-22)に、当時の側廊付きコンパートメントが出てくる。

 

客車には客室が六部屋あり、当然ながら従来のとおり各客室は車両側面沿いの廊下でつながっている。(…中略…) 一番目の客室は「喫煙客室」で(…中略…) その隣は婦人客室…

 

【車掌が、コンパートメントを一人で使いたい、と要望する乗客に言う。】

 

こちらから飛び入ってください。私のほうで鍵をかけましょう。ただし側廊側のドアから押しかけてくる人はとめられません。

(…中略…)

ほかに中に入るルートは客車の外側のドアからだけ…

 

この小説で、車掌は、外に直接通じているドア(列車外から側廊に出入りするドア)に鍵をかけたが、側廊からコンパートメントに出入りするドアは施錠出来しなかった、ということだろう。

「客車の外側のドア」というのは側廊と反対側の、外に直接通じているドアのことだと思われる。つまり、このコンパートメントの左右中央部にはそれぞれドアがあったのだ。

 

私は1900年代初頭が側廊付きコンパートメントの登場だ、と思っていたので、いつごろ側廊付きが出てきたのか当時の新聞で確認しましたよ。

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Daily News 1892-03-08記事。

1892年3月7日が(少なくとも)Great Western Railway社の鉄道ではイングランド初。

 

[要約] パディントンからオックスフォードまで1時間15分。昨日1:30の列車が発車した。これはGWR社が運行する初の"Corridor Train"である。同社は、この名称がPullman(寝台客車)と同じようにポピュラーになると考えている。客車には前から後までずっと続く側廊があり、客車と客車の間にも行き来できる通路が備わっている。片側に男性用、もう一方に女性用のトイレが置かれているのは長旅ではありがたいことだ。

 

側廊付き列車に反対する意見の記事も見つけました。

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Southern Echo 1892年4月26日記事

 

[要約] 客車に新たな設備を施すのには反対である。Corridor Trainは英国では必要とされていない。英国人はプライバシーに重きをなすのだ。知らない者が沢山いるサルーン式客車はガラガラではないか。トイレが必要なら"lavatory carriage"で十分である。

 

この意見に関わらず、その後は側廊付きが基本となった…

英国にもし旅することがあれば、古いコンパートメントの客車に乗りたいなあ。

 

【側廊付きコンパートメントが登場する作品(とりあえず気づいたものだけ)】

・M・R・ジェイムズ「古代文字の秘宝(Casting the Runes)」(1911)

アガサ・クリスティプリマス行き急行列車(The Mystery of the Plymouth Express)」(1923『教会で死んだ男』収録)

セイヤーズ「顔のない男(The Unsolved Puzzle of the Man with No Face)」(1928)

他にもいろいろあったはず。

 

(追記) 英語ブログだが英国コンパートメントの発展についてのわかりやすい記事がありました…

The Development of the Railway Carriage