十六 × 二十

本について。時々他のネタも。心臓が悪いのでコメント不可です…

ペリー・メイスン第3話。1934年2月出版★★★★★

 

私は創元文庫で読んだ。

幸運な足の娘 (1959年) (創元推理文庫)

本書の前作『すねた娘』の引きは、スカートを高くたくし上げた美しい脚の写真(顔は写ってない)と簡単なメッセージだけがメイスン事務所に届く、というもので、なんだろ?とデラ共々首を捻るシーンで幕(だけどメイスンはその脚が気に入った筈だ…)。当時のファッションをチラッと調べると1935年からだんだん短くなり、1939年には膝下ギリギリのスカート丈になったようだ。この小説の頃は水着とかテニスウェアとかを除きふくらはぎが半分見える程度のロングが普通っぽい。
やって来たのが男だったのでちょっとがっかりな(←とは書いてないけど)メイスン。200万ドルの脚を持つ女性が困ってるというので早速、行動を開始(当時の200万ドルは米国消費者物価指数基準1934/2020(19.24)当時の$1=現在2072円なので約41億円。まあ宣伝文句なので大袈裟な数字だ)。映画の世界が背景なので、暗黒街の顔役(ハワード・ホークス1932)、吾輩はカモである(マルクス兄弟1933)、コンチネンタル(アステア&ロジャース1934)、影なき男(1934)或る夜の出来事(1934)なんてのをイメージすれば良いか。メイスンもの自体もThe Case of the Howling Dog(原作『吠える犬』)がシリーズ第1作目として1934922日に公開されている(ワーナーで1937年までに全6作が作られたがヒットしなかったようだ。探偵ものって難しいよね私は未見)。この時期はヘイズ・コードが厳しくなるギリギリの時期(19347月から厳格化)なので、結構自由な(キワドイ)描写が多かった由。
さて、メイスンが悪党を締め上げようと色々調べてるとその後は読んでのお楽しみ。目まぐるしい展開でタクシーや飛行機(1934年でイメージしてね。木造プロペラ。複葉機も普通に飛んでた時代。DC-3もまだデビューしていない)を使い飛び回るメイスン。何度も追い詰められるが、あの手この手で切り抜けるところが非常に楽しい。残念ながら法廷シーンは無いのだが(ESGは読者を退屈させると思ってたらしい)十分お釣りの来るラストだと思う。ハラハラ・ドキドキ、読後スッキリの最高傑作の一つ。
メイスン御用達のタバコはマールボロのようだ。子供を抱えて一生懸命働いてる売り子にポンとはずんだ20ドル(=4万円)「お嬢ちゃんに」「困りますわ。あたしはなんとか暮らしはたててますし」「僕の運のためなんだ」こーゆーのは換算してみないとニュアンスがわからない。15章でメイスンが田舎者風に喋るのだが(Thash=That's, Shalesman=Salesmanなど)これはどこ訛り?
ところで以前、メイスンもので加州が舞台と明言されたのは『奇妙な花嫁』(51935)が最初、と書いたけど、創元文庫を読むと数回「ロスアンゼルス」とある。原文ではthe city(1)とかhere(5)とかで明言を避けているのだが意味のない補い訳はやめて欲しい。(Hollywoodという単語も出て来ない。内容的にはバレバレだけど…)

2020.07.17(シミルボン掲載)