十六 × 二十

本について。時々他のネタも。心臓が悪いのでコメント不可です…

JLBとGKC (とJDC/CD)

シミルボン投稿日 2021.09.03

↑旧版(1988)は変形本

『バベルの図書館』(以下の引用は旧版1988から)の第一巻、チェスタトン集「アポロンの眼」の序文にボルヘスは探偵小説について、こう書いている。

ポーの発明になる探偵小説というジャンルは、それがあらゆる文学ジャンルのうちで最も人工的なものであり、最も遊びに似たものであるからには、いずれ消滅する時期がやってくると予想される。そもそもチェスタトンは書いていた、小説は顔面の戯れであり、探偵小説は仮面の戯れであると。そのような評言や、このジャンルの消滅の可能性にもかかわらず、あり得べからざる超自然現象をほのめかす神秘が、最後の数行に至ってようやくわれわれに与えられる論理的秩序の解決のように興味津々たるものである以上、チェスタトンの探偵小説がいつまでも読まれつづけるであろうことは確実である。(土岐恒二 )
“Cabe prever una época en que el género policial, invención de Poe, haya desaparecido, ya que es el más artificial de todos los géneros literarios y el que más se parece a un juego. El propio Chesterton ha dejado escrito que la novela es un juego de caras y el relato policial un juego de máscaras… Pese a esta observación y al posible eclipse del género, estoy seguro de que los cuentos de G. K. C. siempre serán leídos, ya que el misterio que sugiere un hecho imposible y sobrenatural, es tan interesante como la solución de orden lógico que nos dan las últimas líneas.”

ところで「顔面の戯れ」「仮面の戯れ」って何?と思って、引用元を探しましたよありました。以下の文章がそれです。

探偵小説とは、結局のところ、仮面の劇であって、素顔の、ではない。登場人物の偽りの性格により物語が進み、本当の性格は後回しである。作家は最後の章で初めて、最も興味深い人間の、最も興味深い事柄を伝えざるを得ない。この仮面舞踏会では、全ての参加者は別の誰かに扮していて、12時の鐘が鳴ったら、真実の姿をさらけ出すのだ。(拙訳)
“The detective story is, after all, a drama of masks and not of faces. It depends on men’s false characters rather than their real characters. The author cannot tell us until the last chapter any of the most interesting things about the most interesting people. It is a masquerade ball in which everybody is disguised as somebody else, and there is no true personal interest until the clock strikes twelve.” (Illustrated London News 1932
年の記事から) [2023-8-20追記: 二番目と四番目の文を訂正。エッセイ集Generally Speaking(1928)の最初のエッセイ“On Detective Novels”の引用なので19081928年の記事のはず、初出Illustrated London News。内容紹介は藤原編集室のWebサイト『本棚の中の骸骨』「読物と資料のページ」中の記事≪井上良夫「仮面のドラマ」≫が詳しい]

さすがチェスタトン、上手いこと言いますね。

ボルヘスが予言している「消滅」とは、多分、新規なネタ、トリックが枯渇したら無くなっちゃう宿命だよ、ということだろうか。でも「あり得べからざる超自然現象をほのめかす神秘が、最後の数行に至ってようやくわれわれに与えられる論理的秩序の解決」これがたまんないんだよね!というボルヘスの心の叫びに激しく同意してしまう。そしてボルヘスが好きだったジョン・ディクスン・カー(カーター・ディクスン)が目指していたのもその境地だろう。(まー大抵、着地に失敗してるんだけど…)

JDC/CDのミステリについての感想は『ミステリの祭典』にたくさんアップしておりますので是非!

 

ミステリの祭典:ディクスン ・カー

ミステリの祭典:カーター・ディクスン

 

あんたのおすすめは何だい?と言われたら、これが結構難しい。(JDC/CDファンなら分かるよね?)

 

作家的な成長を楽しみたいなら
『夜歩く』(1930)から発行年代順に

 

どんなヘンテコなのでも耐えられる人なら
『曲がった蝶番』(1938)

 

普通の探偵小説のファンなら
『皇帝のかぎ煙草入れ』(1942)

 

結構、本格探偵小説は読んでるけど、JDC/CDは初めて、なら
『三つの棺』(1935)

 

または
『黒死荘の殺人』(1934)

 

あたりでどうですかね?