十六 × 二十

本について。時々他のネタも。心臓が悪いのでコメント不可です…

アルゼンチンの探偵小説叢書 第七圏

シミルボン投稿日 2021.08.27

ビオイ=サーレスボルヘスは二人とも探偵小説のファンで、エメセ社の翻訳探偵小説シリーズ「第七圏(El Séptimo Círculo)」を企画したことでも知られている(二人が主催していたのは1945-1955、主として英国の探偵小説を収録)
本書は、ビオイの自伝的エッセイ集で、あちこちにボルヘスの思い出が語られている。もちろん、この叢書に関する裏話も一章分(19)記載されている。特に興味深いところを要約。(原文を入手出来なかったので、ニュアンスずれがあるかも)

企画はビオイとボルヘスの持ち込み。エメセ社は興味を示したが、出版社名は表に出したがらなかった。ホセ・ボノーミ(José Bonomi)の表紙画が良かった。結局、叢書は商業的に大成功した。
知り合いたちは自分のお気に入りの作品をたくさん推薦してくれた。
第一冊目に選ばれたのはニコラス・ブレイク野獣死すべし』で発売すると大きな反響を呼んだ。ボルヘスはこの作品に乗り気でなくジョン・ディクスン・カー『緑のカプセルの謎』(シリーズ第2冊目)やロラックの小説(シリーズ初登場はNo.22)を押した。
クリスティ『アクロイド殺し(我々が唯一興味を惹いた女史の作品)は加えたかったが、著作権に阻まれた。
フィルポッツ(ボルヘスお気に入りの作家、No.12,38,42,80,120の五作収録)Monkshood(1939)著作権を得られたが、何故か刊行見送りとなった。 ボルヘスと私はかなり執着したが、エメセ社が出さなかった。
エリック・アンブラー、フランシス・アイルズの特筆すべき作品(バークリー名義のは刊行出来た。あの秀逸な『毒入りチョコレート事件』など)、ハメット『マルタの鷹』(映画を気に入っていた)、エラリー ・クイン[クイーン]、ドロシー・セアーズ[セイヤーズ]も著作権を得られなかったため断念(セイヤーズは、我々の好みではなかったが)
我々はハメット、チャンドラー、チェイニイ、ウイリアムアイリッシュ、プロットの構築や人物描写よりもいかに早く作品を完成させるかに意を注いだに違いないE・S・ガードナーは読んだが、米国ハードボイルド作品を加えるつもりはなかった。でもジェイムズ・M・ケインは三冊加えた。(No.5, 11, 20)
ボルヘスはチャンドラーを好まなかった。マーロウは忌まわしい悪漢と感じていた。私はマーロウに魅力を感じていたが。後にチャンドラー『湖水の女(No.161)は叢書に加わった。[1960年なのでボルヘス/ビオイ時代の後] (2023-8-20追記: 原文ではボルヘスのマーロウ評はMarlowe siempre le resultó un malevo desagradable. 私にはニュアンスは分かりません)
探偵小説というレッテルで不当な忘却を強いられている秀作を南米読書界に紹介できて良かった、と思う。探偵小説は、多数の読者の支持を得ているが、生真面目な人々には必ずしも歓迎されないものだ。

15歳年下の友人が語るボルヘスの思い出の数々。ファン必見の一冊です。
なお、<第七圏>シリーズ一覧(1945-1983)WEBサイト「ミステリの祭典」の掲示板に近々発表する予定です… (2021-9-4追記:まだ完璧では無いのですが95%完成版をアップしています。上記サイト「掲示板」の検索窓で Borges を指定してみてください)

 

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