十六 × 二十

本について。時々他のネタも。心臓が悪いのでコメント不可です…

122回目のバースデイ

シミルボン投稿日 2021.08.24

(シミルボンのお題「あなたの人生に一番大切な本」に投稿したもの)

集英社 世界の文学 第9集(1978)

今日824日はアルゼンチンの奇想作家、詩人ホルヘ・ルイス・ボルヘスの誕生日。
数日前からボルヘスに関して、個人的に盛り上がっているので、ここでは記念日にちょっとした思い出を。最初に読んだのは、集英社 世界の文学 第9集(1978)篠田一士訳。この文学選集は、従来の文学全集のイメージを全く覆す、意欲的なラインナップで、私は最初、セリーヌ(第7集)でガーン!となり、素敵な青クロス装の本シリーズを古本屋でバラのを買い漁り、そこで出会ったのだろうと記憶している。(それとも第8集ナボコフが目当てだったか)
作者が言うように、

厖大な本の構成は骨が折れ、かつ、身をけずる濫費である。完全な口述の解説ならば数分ですむ一つのアイディアを、五百ページにわたって発展させてゆくとは!(『伝奇集』第I 八岐の園 プロローグより)
Desvarío laborioso y empobrecedor el de componer vastos libros; el de explayar en quinientas páginas una idea cuya perfecta exposición oral cabe en pocos minutos.

ということで、全部が短い作品。短い方が正義、と昔から思ってたし、正直読みやすい。
でも読んだら一つ一つがトレーンの謎物質みたいに重いんですよ。これがまた。
そして過去と未来が一点に収束してグルグル回る感じ。この想像力に痺れました。
今では、電子出版社グーテンベルグ21で、この篠田訳が安く手に入る(電子版は『伝奇集』『エル・アレフ』だけの合本で、集英社の全集に含まれていた『汚辱の世界史』は含まれていない)ので、読んだ事ない人は是非。『伝奇集』の最初の三篇「トレーン」、「アル・ムターシム」、「ピエール・メナール」が特にお薦め。
なお岩波文庫でも出ており、翻訳者はラテンアメリカ文学ではかなりのビッグ・ネームだが、残念ながら不十分な出来で、格調は篠田訳に全く及ばない(2023-8-19訂正: 前は酷いこと書いていました。まあそこまで言うことないか、と思って訂正)
最近、篠田訳にも結構な誤り(ニュアンス違いが多い印象)がある事を知った。どうも篠田さんは英訳を結構参考にされたように思う。上の一文も英訳版にはスペイン語原文に無い下品なビックリマークがついてるし… WEBで正しい翻訳(残念ながら未完)スペイン語原文に基づき発表されておられる方がいる。(ご本人はあくまで暫定版、とおっしゃっているが) WEB主さまの許可を得て、下にアドレスを記したので興味のある方は参考にして欲しい。
http://www.cty-net.ne.jp/~ki-tani/rtf/backstage.html