十六 × 二十

本について。時々他のネタも。心臓が悪いのでコメント不可です…

自分の肖像画が至る所に、ってどうだろう?

シミルボン投稿日 2020.08.09

九番目の収録短篇『一時間』One Hour (初出The Black Mask 1924-4-1)

こちらだと三番目の短篇として収録(電子版あり)。銃に引き続き、貨幣の話題でも登場。なかなか役に立つ短篇集だ。(創元文庫の方は早く「短篇全集」を完成してくれないかなあ…)
気球のように丸く太った男(講談社文庫の田中融二訳では関西弁にしてて、違和感あり。原文では訛っていない、と思う。稲葉訳は普通に訳してる)の事件を穏便にと弁護士に依頼されたコンチネンタル探偵局の名無し探偵。ハメットの初期短篇はリアルなネタにちょっとスパイスを効かせた感じがとても良い。
翻訳は、この短篇なら稲葉訳がお薦め。
珍しくオランダの紙幣が登場する。

 

主任の話だと、なんでもオランダの金で——百フロリン札だそうです(The lieutenant tells me it was Dutch money—a hundred-florin note)

 

フローリン(1252年イタリアのフィレンツェで発行されたフローリン金貨 (fiorino d’oro) に由来)は古い言い方で正しくはギルダー(guilderオランダ語ならgulden)
金基準(1924)100ギルダー38.36ドル。小説中に出てくる「38ドル相当」に合致。米国消費者物価指数基準1924/2020(15.13)当時の$1=現在の1662円なので100ギルダー=64千円。
当時最新の100ギルダー紙幣(発行1922-1929)はこんなの。サイズ215x122mm

旧紙幣(発行1911-1921)ならこちら。サイズ220x120mm。イラストはマーキュリーの肖像。

当時のコインはオランダ国王Wilhelmina1世の横顔だが、新紙幣シリーズ(百、二百、三百、千ギルダー)は全て、オランダを象徴する女性(Dutch Virgin)として、町娘(Haarlem出身のGrietje Seelさん)がモデルの同じイラストを使用。(当時から名前バレしてたんだろうか?本人はどんな気持ちだったろう)
まあでもこんな札を眺めて道を歩いてたんだから、事故に巻き込まれてもしょうがないよね!?
(
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ミステリの祭典:ハメット短編全集2