十六 × 二十

本について。時々他のネタも。心臓が悪いのでコメント不可です…

娘がカフェで投げたコイン

シミルボン投稿日 2020.08.27

原著1942年発行。フランスがナチスに占領されてた頃。そこにのんびりとした戦前フランスの小さな観光地の出来事をぶつけてきた作者の心情を、まずは慮って欲しい。Webサイト「ミステリの祭典」で非常に高評価なJDC/CD中期の傑作。シチュエーション作りが素晴らしい。ミステリ書評やトリビアはそちらに書いたので、そこでは詳しく触れてなかったネタをここに書くことにする。
物語の前半、ある娘がカフェテラスでカクテル代として5フラン支払う。

五フラン硬貨をテーブルに放って(threw a five-franc piece on the table)

この作品、作者が書いた日付(91日月曜日)だと、小説中の年代設定が1941年か1930年になっちゃうんだけれど、前述のサイトではまあ色々考えて1936年が正しかろう、とした。でも実はこの5フラン貨幣が年代確定に役立つのだ。
1930
年代の5フラン貨幣は1933年発行の左側と1933-1938発行の右側の2種類。
(
以下、写真はwikiのものを加工。10円玉は大きさ比較のため)

これ以前の5フラン貨幣は1878年まで発行されてたこの銀貨が最後。

つまり1879年から1932年までの約半世紀、5フラン貨幣の発行はなかった。と言う訳でこの小説の舞台は1933年以降だろうと考えられる。
まあでも当時の銀価格(1936)で考えると、銀の含有量から、この古い銀貨は当時の5.39フランに相当。なので、この銀貨で支払ったとしても、そんなに勿体ない感じではない。だから1930年説も一応成立する。
1936
年当時の仏国物価指数基準で換算すると5フランは現在約450円。カフェテラスのカクテル代としては妥当なところか。
なお、この小説に登場する主人公の女性(上述の娘とは別人)を称してフランス人署長が使う謎の言葉zizipompom(駒月訳では上品に「目もあやな大輪の花」、以前の井上一夫訳では「打ち上げ花火」)は、やっぱりzizi(仏俗語)pom pom(ポンポン砲37mm Vickers-Maxim pom-pom 1903/13のこと?)するような美女、と言う意味だと今でも思っています…(相変わらず下品ですみません)