アントニー・バークリーは大好きだけど、なぜかフランシス・アイルズは苦手で二大長篇『殺意』(1931)、『犯行以前』(1932)は二作とも途中で挫折している。なんだかいつもの女嫌いが悪化してるように感じるんだよね。
この頃のバークリーさんは実生活では不倫→離婚→再婚(相手は自分の文芸代理人の妻)で大忙しだったろうから、お金がたくさん必要だったのでは?と思っている。
最近、British Newspaper Archivesでこの両作品の初出号を確認して、色々興味深いことがわかりました。
『殺意(Malice Aforethought)』はDaily Express 1931-08-10〜09-15の連載、初回から23回まではLance Cattermole(1898-1992)のイラスト入りです。A Murder Without a Mysteryの副題。
連載最初にby Francis Iles... WHO IS HE? と煽っていて、彼の出版社曰く"The name hides the identity of a famous novelist"と読者の興味を掻き立てているのです。翌日の読書欄から、作者の正体はAustin Freeman、Mrs. Belloc Lowndes、Edgar Wallace、Francis Brett Young、Richard Hughs、Robert Hichens、Warwick Deepingなど、色々な意見の投書が毎回載るようになりました。
作者と新聞社が仕掛けた話題作りでしょうね。当時のDaily Expressの発行部数は1930年で169万部(英Wiki "List of newspapers in the United Kingdom by circulation")。
続いて『犯行以前(Before the Fact)』も同じくDaily Expressで1932-04-25〜06-04の連載(タイトルは"Married to a Murderer")、初回から9回まで挿絵ありですが画家の名前は不明(イニシャルRMCと読めるが調べつかず)。
連載開始数日前の04-22には「謎のFrancis Iles」の連載がまた始まるよ!という記事が載っていました。編集長は、アイルズの正体が私にはわかった!六七年前に来たパーティの招待状のタイプライターの癖と、今回来た原稿の癖が一致していたんだ。そして実際に彼に会って確かめた。 まだ皆さんには秘密にしておくけど、今言えることはhe is young, quiet, humourous, unmarried, the authour of many other books, and that he has flat feet.(最後のはジョークね)
嘘くさいなあ。もちろん最初の連載時から編集長は正体を知っていたに違いない。
ゴランツから1932年に『犯行以前』が出版された時にも、アイルズは誰?とデカデカとダストカバーの袖に印刷してあります。
さて、アイルズの正体が暴露されたのはいつなのか、Daily Expressで探したら、これかも?という記事がありました。
1933-07-20掲載のバークリー作『ジャンピング・ジェニー』の書評(By James Agate)なんですけど、そこに書かれてるのは「"フランシス・アイルズ"は別の有名探偵小説作家の変名だと言うのは公然の秘密だが、以下、彼をA.B.と呼ぶことにしよう(It is an open secret that "Francis Iles" covers the identity of another well-known writer of detective stories whom for short we will call A.B.)… もしA.B.がF.I.の正体を隠し続けたいなら、もっと注意深くするべきだ。本作を読めばA.B.=F.I.がバレバレじゃん!」という文章なんです。
短い文章なので不明点はありますが以下は読み取れると思います。
(1) この時点では、まだアイルズの正体は公表されていなかった
(2) 業界内では正体は知れ渡っていたようだ
(3) 編集部がこの書評にOK出してる、という事は、公表する潮時だったのだろう
今回、初出イラストを発見したのが、最大の収穫です。Cattermoleさんの著作権は切れてないので引用の範囲として3点のみ部分掲載、『犯行以前』のは画家不明で著作権切れと判断し、全点掲載しました。誰かもっと当時のイラストを発掘して公開してくれないかなあ… (フチガミさまがかつて実践されてた印象があります)
素敵なイラストをオカズにすれば、アイルズ長篇二作を読み切れるかも!再挑戦してみます!
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