
Marie-Guillaume-Alphonse Devergie (Published 1868) ≪9-81≫参照。
警視庁の職員たちが署長を囲んで協議している間、医師たちは、彼らの任務の中でも繊細かつ真に辛い過程に着手した。 ≪9-64≫
忠実なアプサント親父の助けを借りて、彼らは偽の兵士の死体から衣服を剥ぎ取った。そして解剖学講義の外科医のように、袖をまくり上げ、被検体へと身を乗り出し、身体を検分し、精査し、評価を下していった。 ≪9-65≫
若い医師兼芸術家は、彼にとって非常にばかばかしく、まったく不必要な手続きを喜んで手抜きしたかった。しかし、老医師の方は法医学者の使命を重く見ていたため、些細な細部であっても軽んじることはなかった。 ≪9-66≫
彼は非常に丁寧に、そして極めて厳密な正確さで、死体の身長、推定される年齢、気質の種類、髪の色と長さを一つ一つ記録していった。さらには、その肥満の具合や筋肉の発達の程度についても叙述していった。 ≪9-67≫
続いて、彼らは創傷の検査へと移った。 ≪9-68≫
ルコックはちゃんと見ていた。医師たちは後頭部骨折を確認した。報告書によれば、それは打撃面の広い鈍器による作用か、あるいは非常に硬く一定の広さを持つ物体に頭部が激しく衝突したことによってのみ生じ得るものであった。 ≪9-69≫
しかし、拳銃以外に武器は見当たらず、その握りはこれほどの傷を負わせるほど頑丈ではない。 ≪9-70≫
したがって、偽の兵士と殺人犯の間で激しい組み合いがあったのは確実で、後者が相手の首を掴んで壁に頭を叩きつけたに違いない、という結論になる。 ≪9-71≫
首の周囲の無数の小さな皮下出血が、この結論に絶対的な信憑性を与えていた。 ≪9-72≫
他には何の損傷も見当たらなかった。打撲も、掠り傷も、何もない。 ≪9-73≫
それゆえ、この死に至るほどの激しい闘争も、極めて短時間のうちに行われたことは明白だろう。 ≪9-74≫
巡回隊が叫び声を聞いた瞬間から、ルコックが鎧戸の隙間越しに犠牲者が倒れるのを目撃した瞬間まで、すべては瞬時に終わったのである。 ≪9-75≫
法医学用語で言うところの「殺害された」人物二人の検視には、また別の、あるいはそれ以上の慎重さが必要だった。 ≪9-76≫
※ homicidés(殺害された): 当時はあまり使われない語だったのかも。探偵小説が広めた言葉の可能性もありそう。
彼らの遺体はそのままの状態に保たれていた。倒れた時のまま暖炉を横切るように横たわっており、その姿勢は貴重な手がかりとなる。 ≪9-77≫
その横たわる姿は、彼らの死が即死ではなかったなどという疑念を、微塵も抱かせぬほどのものであった。 ≪9-78≫
二人とも、脚を投げ出し、両手を大きく開いて仰向けに倒れていた。 ≪9-79≫
筋肉の硬直も、ねじれも、格闘の痕跡も皆無であった。彼らはまさに一撃のもとに、息の根を止められたのである。 ≪9-80≫
二人の表情は、どちらも極限に達した驚怖を湛えていた。デヴェルジーの学説を容れるならば、彼らの生における最後の感情は、怒りや憎悪ではなく、凄まじい恐怖であったと推測せざるを得ない。 ≪9-81≫
※ Devergie: Marie-Guillaume-Alphonse Devergie(1798–1879) フランスの法医学の権威。ここで言及してるのは1836年の法医学に関する全2巻の大著『法医学:理論と実践(Medecine legale, theorique et pratique)』のことだろう。ユグーランの足跡論文が載っていた専門誌『公衆衛生・法医学年報(Annales d’hygiène publique et de médecine légale)』の共同設立者の一人でもあった。
「そうだね」と老医師は言った。「私はこう推定する。彼らは、およそ予期せぬ、奇天烈で、恐ろしい何事かを目にして、呆然自失したのだ。このような恐怖の表情を私が見たのは、生涯でただ一度きりだ。ある真面目な婦人の顔。隣人が悪ふざけで幽霊に化けて押し入った際、彼女はその衝撃で、即死してしまった」 ≪9-82≫
医師の解説を、ルコックは貪るように聞き、自らの思考の底から湧き上がる漠然とした仮説と繋ぎ合わせようと試みていた。 ≪9-83≫
しかし、そんな恐怖に襲われる人間たちとは一体何者なのか? ≪9-84≫
彼らも、もう一人のように自らの正体を秘したままなのだろうか? ≪9-85≫
医師たちが最初に検分したのは、五十を過ぎた男だった。髪は薄く白髪が混じり、髭はきれいに剃りっていたが、突き出したあごの下にだけは、赤茶けた硬い毛がふさふさと、むさ苦しく広がっていた。 ≪9-86≫
※ Grosse touffe rousse... sous son menton: (以下、未確認のGemini註釈) 法王の首輪(collier de barbe)に近い感じ。当時のフランスでは特定の階層や、ある種の「古臭い頑固な男」を象徴する外見だった。
• 口髭(moustache):軍人や紳士に多い
• 頬髭(favoris):役人やブルジョワに多い
• 顎下の房髭(collier/touffe sous le menton):海夫(水夫)、農民、あるいは下層労働者に多い。
その服装はみすぼらしく、ひどく履き潰されたブーツに、裾のほつれたズボン、上身には汚れにまみれた黒いウールの作業着を着ていた。 ≪9-87≫
老医師は、この男は至近距離から放たれた銃弾によって絶命した、と断言した。円形に開いた傷口の大きさ、その縁に血液の付着がないこと、収縮した皮膚、そして剥き出しになり、黒く焦げ、焼けただれた筋肉組織が、それを数学的な正確さで証明していた。 ≪9-88≫
射撃距離の違いが銃創にもたらす劇的な差異は、医師たちが最後の一人の検死に着手した際、誰の目にも明らかとなった。 ≪9-89≫
こちらを死に至らしめた弾丸は、一メートル以上離れた位置から発射されたものであり、その傷口には、先ほどの遺体に見られたようなおぞましい外観は微塵もなかった。 ≪9-90≫
この人物は、仲間よりも少なくとも十五歳は若く、小柄でがっしりとした体格で、驚くほど醜悪な面構えだった。 ≪9-91≫
ヒゲなどまったくないその顔は、天然痘のあばたでびっしり埋め尽くされていた。 ≪9-92≫
その身なりは、関所外地帯をうろつく野良犬どもの中でも、最下等のものだった。グレーの濃淡で織りなすチェック柄のズボンを穿き、襟を返して胸元をはだけた作業着を纏っていた。短靴は丁寧に磨き上げられていた。 傍らに落ちていた光沢のある小さなキャスケット帽は、その気取った髪型やコリン風ネクタイとともに、彼なりのお洒落な着こなしだったのだろう... ≪9-93≫
※ cravate à la Collin: コリンは当時流行の俳優か犯罪者か伊達男? 調べつかず。
しかし、医師の報告書から専門用語を除いた内容、そして細心の注意を払った捜査によって得られた情報は、以上で全てである。 ≪9-94≫
二人の男のポケットを隅々まで探ったが、無駄だった。彼らの正体や氏名、社会的地位や職業を辿る手がかりとなるものは何も入っていなかった。 ≪9-95≫
本当に、何もなかった。漠然とした手がかりさえも。手紙一通、住所一つ、紙切れ一枚も見つからなかった。それどころか、刻み煙草入れ、ナイフ、パイプといった身元確認に役立つ、個人的な日用品の小物さえもなかった。 ≪9-96≫
回収されたものといえば、紙袋に入った煙草と、印のないハンカチ、それに巻煙草用の用具一式、それだけであった。≪9-97≫
年長者はポケットに直に六十七フランを入れており、年少者は二枚のルイ金貨を所持していた... ≪9-98≫
※ soixante-sept francs: ≪1-15≫の換算で六万三千円
※ louis(ルイ): 当時はナポレオンが刻まれた二十フラン金貨のことを指していたようだ。二ルイ=四十フラン=三万八千円
このように、警察がこれほど重大な事件に直面しながら、これほど手がかりを欠いているという事態は、稀だった。 ≪9-99≫
三人の犠牲者という明白な事実を除けば、警察は何一つ把握していなかった。状況も、動機も、そして、断片的に明らかになった可能性も、深き闇を払うどころか、かえってそれを濃くするばかりであった。 ≪9-100≫
もちろん、時間と執念で、ジェルザレム通りが誇る強力な捜査網を駆使すれば、いつかは真実に辿り着けるだろう。 ≪9-101≫
だが、現時点では、すべてが謎に包まれており、そもそもどちらの側に犯罪の理があるのか、判然としないのだ。 ≪9-102≫
殺人犯は逮捕された。だが、彼が黙秘を続けるなら、どうやってその正体を暴き立てればよいのか?彼は無実を主張している。どうやって有罪の証拠を突きつけられるのか? ≪9-103≫
犠牲者については何も知られていなかった…そして、そのうちの一人が自らを告発した。 ≪9-104≫
シュパン後家の口は、説明のつかない何らかの理由で封じられていた。 ≪9-105≫
二人の女性、そのうち一人は『胡椒入れ』で五千フランのイヤリングを一つ紛失したようであり、争いを目撃していた…そして姿を消した。≪9-106≫
共犯者は、二つの驚くべき大胆な行動の後、上手く逃げた... ≪9-107≫
そして、殺人犯、女たち、酒場の女主人、共犯者、犠牲者たち。この事件に関わる全員が等しく不審であり、不穏であり、奇妙であった。そして誰もが何者かを演じている可能性があった。 ≪9-108≫
署長も苦渋に満ちた声で、自分の印象をまとめていた。おそらく彼は、この件について警視庁で苦い十五分間(針のむしろ)が待っていると考えていたのだろう。 ≪9-109≫
「さあ」と彼はついに言った。「この三人を死体公示所(モルグ)に運ばなければ。あそこなら、身元を知る者が現れるかもしれない」≪9-110≫
※ Morgue: Île de la Citéに1804年に設置され、1868年にQuai de l'Archevêchéに移設された。身元不明の遺体を公開するのが主目的のようなので「死体公示所」と訳す。
彼は言葉を切って沈思し、こう付け加えた。 ≪9-111≫
「もしかして、この死者のうち一人がラシュヌールだ、とわかるかも...」 ≪9-112≫
「それは考えにくいです」とルコックは言った。「最後まで生き残っていたあの偽兵士は、仲間二人が倒れるのを見ていました。ラシュヌールが殺されたとわかっているのに、復讐だ、などとは言わないでしょう」 ≪9-113≫
この二時間、離れた場所にいたジェヴロルが近づいてきた。彼は、たとえ明白な事実を前にしても、簡単に折れるような男ではなかった。≪9-114≫
「署長殿」彼は言った。「私を信頼されておられるなら、ルコック殿の空想よりも、もう少し現実味のある私の意見を取り入れていただきたい」≪9-115≫
酒場の表で馬車の車輪が回る音が響き、彼の言葉を遮った。その直後、予審判事が入ってきた。 ≪9-116≫
※ 初出紙の連載第15回目(1868-6-10)の終わり
(つづく)
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