十六 × 二十

本について。時々他のネタも。心臓が悪いのでコメント不可です…

White Noteってブルーノートの親戚?

シミルボン投稿日 2020.08.05

1922年出版。初出は海外向け週間新聞The Times Weekly Edition 1921-8-1212-2 (17回連載)
第一次大戦後の不景気で貧乏な若者二人が恐ろしい陰謀に巻き込まれていくスリラー。でも深刻な話じゃないので気楽に読めますよ。
第二章のラスト、急に羽振りの良くなったタペンスが歩いてたトミーの前でタクシーを止めて言うセリフ。
「ねえ、タクシー代を払ってくれない?五ポンドのお札はあるんだけど、小銭がないの」
現在価値は英国消費者物価指数基準1920/2020(44.99)当時の£1=現在6383円。五ポンド=31916円。
当時の5ポンド紙幣はBank of England発行のWhite Note、サイズは195x120mm(単行本四六版よりやや大きめな感じ)
こんなの。
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証券みたい。裏は白紙だし、白地に黒文字のシンプルさ。(この画像では見えないが透かしはある)
実は1914年まで英国紙幣の最低額面がこの五ポンド紙幣。かなりの高額なので庶民は紙幣をあまり見たことが無く、日常生活は全て貨幣(当時は金貨や銀貨、1ペニー以下のみ銅貨)を使ってた。しかし戦争勃発で預金や高額紙幣(当時は1000ポンド札まであり)を金貨や銀貨に換える人が続出(イングランド銀行保有の金貨2650万ポンド(=1700億円)のうち1230万ポンド(46%)が出て行ったという)、慌てた政府は財務省発行券(HM Treasury note)として不換紙幣の1ポンド(=6383)10シリング(=3192)の二種を急遽発行した、という訳。
1914
8月発行の最初の1ポンド紙幣はこんなの。サイズは127x64mm、かなり小さい。
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こっちは191410月発行の改良版。サイズは149x83mm。たった二ヶ月でデザイン変更するなんて、慌てて発行した感がありあり。
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準備期間が短く造りがシンプル過ぎて、結構、偽札が出回ったらしい。でも金融システム崩壊は免れた。
やっとまともな紙幣になったのは19171月。サイズは151x84mm
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冒頭のトミーとタペンスに戻ると、カッコよく金持ち風のセリフで決めたタペンスだったが、トミーも十分なお金を持ってなくて二人で小銭をかき集めてタクシー代を支払った。
当時アガサ姉さん31(クリスティ大尉とは離婚前)、本作は『スタイルズ荘の怪事件』(1920)に続く第二作。その後、毎年のように作品を発表するなんて夢にも思ってなかった主婦(赤ん坊1)が描いた冒険世界。トミーとタペンスのようにクリスティ家も貧乏だったので冒頭の貧乏描写は生き生きとしている。
100
年前に遡るのも楽しい、かな?(いろいろアラはありますが若さを楽しむべき作品です。)