十六 × 二十

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アガサ・クリスティのデビュー101周年記念!第一弾デビューの頃

シミルボン投稿日 2021.01.20

 

昨年2020年は、アガサ・クリスティのデビュー100周年。そんな事とっくの昔に知ってるよ、と言うあなた。ではデビューした月はいつでしょうか?

WikiThe Mysterious Affair at Stylesの項には、冒頭に出版年月が書かれています。アガサさんが原稿を書いたのが1916年で、米国でJohn Lane192010月に、英国ではThe Bodley Head(John Laneが設立)1921121日に出版。初出が項目のあとの方で明記されています。

The novel received its first true publication as an eighteen-part serialisation in The Times newspaper's Colonial Edition (aka The Weekly Times) from 27 February (Issue 2252) to 26 June 1920 (Issue 2269).

なお、アガサさんの第2The Secret Adversaryも同じくThe Time Weekly Edition1921-8-12(Issue 2328)から1921-12-2(Issue 2343)までの17回連載が初出です。 

いずれも省略などのない、完全版で連載されたようです。


さてThe TimesColonial Editionとありますが、これではヒットせず、良く調べるとThe Times Weekly Editionが正式名。
たまたま、私は1920827日号(Issue 2278)を持ってるので、この号をもとにして、由緒ある英国日刊紙ザ・タイムズの週刊版がどのようなものであったかを紹介し、アガサさんデビュー101周年の記念といたしましょう。

 

全世界で販売していたようで、最終ページに各国での代理店がずらり。フランス、イタリア、スイス、スペイン、オランダ、ベルギー、デンマークノルウェールーマニア、マルタ、キプロス、エジプト、パレスチナ、シリア、トルコ、アデン、インド、シンガポールインドネシア、中国、日本、ハワイ、カナダ、米国、トリニダード、ジャマイカ、ブラジル、アルゼンチン、オーストラリア、南アフリカシエラレオネ、ナイロビ。(あれ?ドイツが無い…)
日本ではMaruzen K.K., Nihonbashi, Tokyoを筆頭にOsaka, Kyoto, Fukuoka, Sendai丸善が取り扱っています。
値段は16ペンス。英国消費者物価指数基準1920/202044.99倍、1ポンド=6343円で換算すると6ペンス=159円。英国内では年契約で23シリング(=7294)11.5%引き、海外だと年間30シリング(=9514)です。
紙面を見ると824(火曜日)までのニュースが掲載されているようです。25(水曜日)に印刷して各地に送付するという仕組みでしょうか。

サイズは470x310mm、構成は、表紙(The Times Weekly Edition [改行] Illustratedと書かれています)の表裏4ページがやや厚い赤っぽい紙で、1ページ目は広告、2-3ページ目は先週分の補足ニュース、4ページ目にはチェスのコーナーもあります。
本文(普通の新聞用紙)20ページ。加えてやや上質紙で16ページの写真ページが付いています。

本文1ページ目はロンドンのニュース、2-5は重要ニュース、6は議会関係、7はパリ・ファッション、8は物価、9は投書、10は私信、11はその他のニュース、12-13は小説のページ(この号にはMuriel HineThe Breathless Momentの第10(承前)〜第11(続く)までを掲載)14は国内ニュースを短く、15は海外ニュースを短く、16-17はスポーツ、18は経済、19は雑多なニュース、20は切手欄と広告。

写真ページにはニュースの決定的瞬間やセレブやファッションやスポーツや映画や演劇など100枚以上の写真(かなり鮮明)が掲載されています。

というわけで、アガサさんはこの紙面で19202月にいきなり「全世界デビュー」を飾ったのでした。(この欄に掲載された小説にはH. G. WellsLove and Mr Lewisham (1899-1900)Arnold BennettDenry the Audacious(1910)があるという。小説の連載は1920年代初め頃まで続いたようです。)


このThe Times週刊版、英国を知るにはかなり便利で良いものだと思うので、日本にも結構入ってきていたのではないか、と思います。(日本に届くまでどれくらいかかったんだろう?) 当時、日本で誰かが連載を読んで『スタイルズ荘』の感想を書いたのが発掘されたら面白いですね


ところで、この紙面に第1作、第2作ともに掲載されたというのは、どういう経緯なんだろう。よっぽど期待の新人だったのかなあ。 (上記Muriel Hine “The Breathless Moment”John LaneBodley Headから出版されている。ということはJohn Laneが枠を持ってたのか?)

 

クリスティ自伝によると、The Weekly Timesの連載権は50ポンドで、その半分の25ポンド(=16万円)がアガサさんに渡された(『スタイルズ荘』自体は英国で2000部近く売れたが、契約条件により印税が入る2000部には届かなかったので、この25ポンドだけが収益だった)。

「わたしのためにたいへんいいことだ、とジョン・レーンがいった。若い作家にとって、《ウィークリー・タイムズ》が作品の連載をしてくれるのは有望なことだった。」(『クリスティ自伝』より)

なお『スタイルズ荘の怪事件』のミステリ的感想は、Webサイト「ミステリの祭典」で。

「ミステリの祭典」スタイルズ荘の怪事件

スーシェのTVシリーズにも触れています。