十六 × 二十

本について。時々他のネタも。心臓が悪いのでコメント不可です…

文系の妄想力

 

カナダのユーモア作家スティーブン・リーコックに「ABC物語」という愉快な短篇があって、収録本が見当たらないので、うろ覚えでざっと概略を説明すると「子供の頃、算数の時間で教科書にA, B, Cの三人がよく出てきた。Aはいつも多くのお菓子やリンゴをせしめ、時々BAの倍の量をもらったりするが、Cは味噌っかすで、もらえる量はせいぜいAの半分だし、運動音痴で走るのも泳ぐのも不得意」みたいな感じ。そーそー。文系って設問にキャラが出てくるとつい感情移入しちゃうよね。だから「BCからリンゴを3個取り」とかが問題にあったら「当然、CBをぶん殴ってBのを全部奪い取るので、答えは11 個です!」って回答になりかねないのが文系だ。
この本の著者(大学教授)とかその学生はゴリゴリの理系なんだろう。言葉に対する受け止めが一面的過ぎる気がする。
違うよな〜、と思ってもなかなか反論しにくい議論(私は簡単に言いくるめられるタイプだ)がそこかしこに展開されてる。中には酷いのもあるが(742とか。ランダムを誤用してるよね…)とりあえず一つ、別解を思いついたのがあるので、ここにご披露。(なお新版が出てるらしいので、この別解みたいなのが既に追加されているかも? 確かめてません)
70。いわゆる「死刑囚のパラドックス」以下は本書の設定を物語風にアレンジ。ちょっとだけ設定を変えるけど、基本は崩してないつもり。


大臣が囚人に言う。
「来週、わしがこの手でお前の死刑を執行する。楽しみだなあ」
「お願いがあります。私が死刑執行の日を論理的に予想出来たら、釈放してください」
囚人の幼馴染みである王(なんとかして減刑しようと画策しているが上手くいかない)は青ざめる。その問題は不可能であることを知っているからだ。つまり来週の最終日(金曜日とする)は死刑を執行出来ない。なぜなら木曜日が来ても死刑になってなかったら、金曜日が死刑執行日だと予め証明出来るから。以下、同じ理由で木曜日も水曜日も火曜日も月曜日も執行出来ない。全ての日が取り除かれて死刑執行は不可能に思えるが、(例えば)火曜日に「予想外に」執行されてしまって幕、ということになる。
もちろん大臣もこのパラドックスに満ちた問題を知っている。ニヤリと笑い王の方を見て「約束しようただし予想は完全に論理的でなければならん」
「来週の月曜日から金曜日の間に私は確実に死刑になるのですね」
「そうだ。全ての可能性を考慮したまえ。そして純粋に論理的な回答を用意するのだぞ」
王の憂いに満ちた顔を見て囚人は「王よ、神ならぬ身の私は、いつかお別れする定め。お悲しみにならぬよう
さて大臣は次の月曜日、王と共に囚人の牢獄へ。死刑は水曜日、と決めていた。なるべく長く苦しむがよい
「元気そうだな。今日から食事は最高のものを用意しよう」
「大臣、私の死刑は今日です」
大臣は嘲笑った。「毎日朝一番に今日は死刑になる、と宣言すれば予想したことになる、という愚かな説を採用するとは!案外くだらぬ奴だ。どこに論理がある」
「証明しましょう。明日、私が生きているという絶対の保証がありますか?あらゆる全ての可能性を考慮するなら、今しか確実に私を死刑に出来ないのです!」

2020.07.25(シミルボン公開)

 

[2020.07.26 11:07追記]

一晩寝たら、大臣の返しを思いつきました。(←オロカモノめ!)

続きは「謎は思考を活性化させる!」でご覧ください。囚人の運命はいかに?

danjuurock.hateblo.jp