十六 × 二十

本について。時々他のネタも。心臓が悪いのでコメント不可です…

謎は思考を活性化させる!

 

 

 

子供の頃に出会ったクイズ本にはマーチン・ガードナーの名があり、それからずーっと長いお付き合い。

 

この名著は旧版も新版も買って読んだ。痺れるほどスケールの大きな本。だって鏡の左右の話から始まって最後は宇宙の創造にまで行っちゃうんだよ。

 

つい最近では、これ。ただしアリスの本文の訳は最初に読んだ、多分、角川文庫の岡田忠軒さんのものだと思うんだけど「バタ付きパンバタパン」とか「トーヴしならか」とかが脳内に住み着いてるから高山センセの訳にはどうしても違和感を覚えてしまう。


あっそうそう。パラドックスの話だ。
解けない謎ってどうしても解明したくなる。「クレタ人は皆ウソつきだ」というクレタ人の言葉をどう解釈するか?と問われて「バカ馬鹿しい、言葉の綾だろ?」って思うのか、論理的にはメタに行く、と分析するのか、いやいや、メタなんてレベルを安易に使っちゃいけないよ、と法解釈のルール(発言者の趣旨を重んずる)でフラットに解くのか、あれこれ選択があって悩む。答えが用意されてないところが良い。
近代の学校制度は答えを前提としていて、プロセスを軽視し、答えだけあってれば満足するが、科学的、とは「思考実験」を不断に繰り返す方法論だ。不変の定まった答えなんて実は無い。永遠のトライと仮説があるだけなんだ。
だから口ばかりたつ詭弁家になっちゃうようなパラドックスは嫌い、なんて言わないで、子供にはどんどんパラドックスを与えて真面目に考えさせると良い、と思う。(←捻くれ者が増えちゃうんじゃない?)
最後に、連載第1回「文系の妄想力」の続きを掲載。
実はあれでケリをつけた気になってたけど、よく考えたら全然違ってた。後から気づいて「うわあ!愚かな自分!」ってなりました。是非、連載1回から読んでくださいね!

danjuurock.hateblo.jp

「死刑囚のパラドックス(承前)
「あらゆる全ての可能性を考慮するなら、今しか確実に私を死刑に出来ないのです!」
囚人はまっすぐ大臣の顔を見据える。証明の意味を理解し、王の顔が輝く。
虚を突かれた顔の大臣。だがすぐに嫌らしい狡猾な表情に変わってゆく。
囚人の表情が曇る。証明の何処かに穴が?
「大臣。聞こえたであろう。見事な証明だ。囚人を解き放て」
大臣は意に介せず「賢明なる王さまでも、このような低劣な屁理屈に騙されてしまうとは。実に嘆かわしい」
不安顔の囚人を睨みつけ「まさに女子供が思いつきそうな愚論だ。法は日常言語で書かれ、運用されている。全ての例外事項をいちいち記していたら、百万言あっても足りぬわ。」
「何を言う。人は死すべきもの、というのは自明の理であろう」と王は反論するが、囚人は痛いところを突かれた、と言う表情。
「ほれ、あ奴も自覚しております。わしの言う全ての可能性とは「常識的に起こりうる」のが当然の前提。元気な者が突然死ぬなぞ、考慮の外」
「だが死ぬ可能性はあるだろう、急な病気とか
「百歩譲りましょう。王さま。奴が死刑執行の日まで生きておれるか、待つだけで良いのですから」
ここで王も気づく。囚人は今解放されなければ生き延びるチャンスはない。死刑執行の日まで待たれてしまえば、大臣の明言通り「確実に」死刑が執行されるか、死刑執行前に不慮の死を遂げるかの選択肢しかなくなる。
囚人の顔が歪む。絶望の色。
大臣は得意げに「理論的には別の可能性もありますな。万一わしが死ねば死刑は中止
「その通りだ」王は懐からピストルを取り出し、躊躇なく全弾を大臣の身体に撃ち込んだ。
死んでいるのを確かめ、呟く。「初めて意見が一致した」
衛兵が飛び込んできた。王は銃を隠し「賊にやられた。我を庇って名誉の死だ」
衛兵は王を見つめ、周りを見渡し、状況を素早く理解した。
「見張りが寝ておりましたから、その隙に侵入したのでしょう」直ちに賊の捜索に出て行った。
王が囚人の両手の枷を優しく外すと、囚人は束ねた長い髪を解き頭を振った。
「犯人を目撃してしまいました」
「君は証言できまいよ」王は囚人の細い腰に腕を回した。
「なぜ?」
「余の配偶者になるのだから」
「ああ、王さま」
(
暗転)


配偶者に不利な証言を拒否できる権利は英米法だけ?日本も同じようだがよく知りません

2020.07.26(シミルボン公開)