十六 × 二十

本について。時々他のネタも。心臓が悪いのでコメント不可です…

祝アガサさんデビュー百年越え: 第二弾 アガサさんの1924年

シミルボン投稿日 2022.05.03

 

1️⃣『死の猟犬』短篇集1933出版

2️⃣『リスタデール卿の謎』短篇集1934出版

3️⃣マン島の黄金』短篇集1997出版

4️⃣『謎のクィン氏』短篇集1930出版

本のタイトルはいずれも早川クリスティ文庫準拠です。なお、以下の短篇タイトルに付いている1️⃣などの数字は上記短篇集の番号、カッコつき数字はその短篇集の中の収録順です。

誰もやっていないようなアガサさんの作品の切り口はないかな?と考えたら、短篇を年代順に読む、というやり方はあんまり見たことないなあ、と思いつき、やってみることにしました。


長篇『スタイルズ荘の怪事件』(1920)ポアロ及び『秘密機関』(1922)でトミー&タペンスという主人公たちを登場させたアガサさん。初短篇は週刊誌The Sketch1923-3-7に掲載されたポアロものだと長らく信じられていたのですが、世界旅行中に書き、オーストラリアの雑誌に発表されたThe Wife of Kenite (初出Home[Austraria] 1922-9)が後に発掘されています。でもポアロものの短篇の方が先に書かれており、雑誌に売れているはずなので、ポアロもの「戦勝記念舞踏会事件」The Affair at the Victory Ballがアガサさんの事実上の初短篇、と言って良いでしょう。1923年はポアロものの長篇『ゴルフ場の殺人』をThe Grand Magazineに連載し、The Sketch12週連続×2回連載(+クリスマス特集誌に1)したポアロの短篇シリーズ25作とノン・シリーズの以下の1作を発表しています。(多分半分以上は1922年の世界旅行前に書いたもの)

 

The Actress (初出The Novel Magazine 1923-5 as ‘A Trap for the Unwary’ 挿絵Emile Verpilleux)3️⃣(2)「名演技」中村 妙子 : 評価5

 

同じく1923年は世界旅行から戻り書いた長篇『茶色の服を着た男』の新聞連載が決まり500ポンド(現在の約500万円)を得て、自分の自家用車を購入することになり、アガサさんは大喜び。夫アーチーに良い仕事も見つかり、子守も良い人が見つかり、私生活は順風満帆、幸せいっぱいなクリスティ一家でした。

 

さて1924年のアガサさんはポアロものの連作短篇『ビッグ・フォア』を発表、続いて以下のノン・シリーズを次々と発表してゆきます。断続的に『おしどり探偵』の諸編も掲載しています。(このリストでは省略、詳細は「ミステリの祭典」)

 

2月 The Girl in the Train (初出The Grand Magazine 1924-2)2️⃣(3)「車中の娘」田村 隆一 : 評価5

 

3月 The Coming of Mr Quin (初出The Grand Magazine 1924-3 as ‘The Passing of Mr Quinn’ 挿絵Toby Hoyn)4️⃣(1)「クィン氏登場」嵯峨 静江 : 評価7 [これはクィン氏シリーズだが、作者は連載シリーズにする気はなかった、というのでここに計上]

 

4月 “While the Light Lasts” (初出The Novel Magazine 1924-4 挿絵Howard K. Elcock)3️⃣(9)「光が消えぬかぎり」中村 妙子 : 評価5

 

6月 The Red Signal (初出The Grand Magazine 1924-6 挿絵Graham Simmons)1️⃣(2)「赤信号」小倉 多加志 : 評価5

 

7月 The Mystery of the Blue Jar (初出The Grand Magazine 1924-7 挿絵Graham Simmons)1️⃣(8)「青い壺の謎」小倉 多加志 : 評価5

 

8月 Jane in Search of a Job (初出The Grand Magazine 1924-8)2️⃣(7)「ジェインの求職」田村 隆一 : 評価5

 

8月 Mr Eastwood's Adventure (初出The Novel Magazine 1924-8 as ‘The Mystery of the Second Cucumber‘ 挿絵Wilmot Lunt)2️⃣(9)イーストウッド君の冒険」田村 隆一 : 評価5

 

10月 The Shadow on the Glass (初出The Grand Magazine 1924-10)4️⃣(2)「窓ガラスに映る影」嵯峨 静江 : 評価4 [クィン氏もの]

 

11月 Philomel Cottage (初出The Grand Magazine 1924-11)2️⃣(2)ナイチンゲール荘」田村隆一 : 評価7

 

12月 The Manhood of Edward Robinson (初出The Grand Magazine 1924-12)2️⃣(5)エドワード・ロビンソンは男なのだ」田村 隆一 : 評価6

 

おまけで1925年の幕開けは、米国雑誌初進出の以下の作品です。

 

The Witness for the Prosecution (初出Flynn's 1925-1-31 as ‘Traitor’s Hands’)1️⃣(7)検察側の証人」小倉 多加志 : 評価5

 

さて1924年のアガサさんの短篇を年代順に読んだ感想は「クィン氏登場」がテクニック的に突出して素晴らしく、小説としては「ナイチンゲール荘」が非常に心を動かされる仕上がり。全体的にはまだまだロマンチックな夢見る主婦が描く軽い作品群、という感じです。
初期のアガサさんは作品世界は自分とは別のもの、という悪い意味での虚構の客観性がありすぎる感じなのですが、上記2作品は自分の内的世界と作品世界との距離が縮まっています。
どうしてそうなったのか?と妄想すると、自分の自動車を得て、自分の腕でドライブ出来る様になったから、という考えが突然頭に浮かんできました。(2023-8-23追記:当時の運転には免許は不要でアガサさんも夫アーチーからチョチョイと習った後は自由勝手に道路に出たらしい… 恐ろしいですね)
これ「エドワード・ロビンソン」の主題なのですが、自動車が男を変える、ということなのです。ならば女性も変えるのでは?と思った次第。
そういう安易な発想ですが、それほど上記2作が別物になっている、ということです。年代順に読むとこういう楽しみ方がありますよ、という提案でした。

なお最初期のポアロもの25作は以下の短篇集に収録されています。

 

5️⃣ポアロ登場』14作収録

6️⃣『教会で死んだ男』9作収録

7️⃣『愛の探偵たち』1作収録

再掲3️⃣マン島の黄金』1作収録

 

1️⃣7️⃣の諸作品の感想はWebサイト「ミステリの祭典」に書いています(ポアロものはスーシェのTVシリーズにも言及しています)ので、興味を持たれた方はご覧ください。

 

[https://mystery-reviews.com/content/sakka_select?id=110:title=ミステリの祭典:アガサ・クリスティ]