十六 × 二十

本について。時々他のネタも。心臓が悪いのでコメント不可です…

ナボコフさんからご紹介いただきました

シミルボン投稿日 2022.08.14

(シミルボンのお題「読んでよかった、人からオススメされた本」に投稿したもの)

昨日、ナボコフ『絶望』(1936年ロシア語からの翻訳)を読んでいて、プーシキンの短篇「その一発」が文中に出てきた。話の本筋には全然関係なかったのだけれど、先に進む前に、この短篇を読んでおこうかなあ、と気になったのがきっかけ。調べると『ベールキン物語』の一話だという。

※ ↑の感想を書いてます。「ミステリの祭典」ミステリの採点&書評サイト

 

『ベールキン物語』は、読んで良かった!とても心が満たされる楽しい物語。どの作品も爽やかでロマンチックで、ちゃんとオチがある。変な連想だけど、米国雑誌「サタデー・イヴニング・ポスト」にぴったりな味わいだなあ、と感じた。神西さんの翻訳文も良い感じに古びていてピッタリだった。


ここでは最終版と思われる岩波文庫で表示したが、kindleの安い版(同じ神西訳だが、河出書房新社「世界文学全集」昭和37-9-25発行の『ベールキンの物語/スペードの女王』復刻版や『ベールキン物語』だけしか収録されていないオリオンブックス版など)もある。青空文庫には綺堂訳の「スペードの女王」もある。こちらは英語からの重訳と思うが、セリフの感覚が非常に良いので、ぜひお試しあれ。

でも1830年代に発表された物語なので、もちろん現代の、そして異国にいるものには全然ピンとこない描写がある。以下はそれについて軽く触れたメモ。(私は上述のkindle河出版で読みました)

 

『ベールキン物語』(1831年作)
ベールキンはプーシキンと同じ頃生まれ、若くして死んだ地方地主(という設定の架空の人)。人から聞いた面白い話の原稿を残していたので、代わりにA. P. (プーシキンのこと)が発表した、と言うテイの短篇集。なので各短篇の間には、何の関連もない。
(1) 「その一発」
・当時のピストルは、銃口から弾を込める方式のフリントロック。なので、銃身が何本もある特殊銃を除き、一発撃ったら次に撃つためには、また弾を装填し直さなければならない。
・決闘時には、同時に撃つ、と言うやり方の他に、順番を決めて一人ずつ撃つ、と言う方法もあったようだ。
・トランプの角を折る、と言う表現が出てくる。訳注には「角を一つ折ると、掛け金の1/4を増減することを意味する」とあるが、これではよく分からない。Penguinの英訳(Ronald Wilks, 1998)だと”doubled his stake”になっていた。
(2) 「雪」
・「五コペイカ賭けのボストン(骨牌)」が出てくる。英Wiki “Boston”によるとトルストイ戦争と平和』、ゴーゴリ『死せる魂』『鼻』にも登場しているらしい。四人でするゲーム、ホイスト系のようだ。貨幣ベースで1800年の1ルーブル=銀18g(=金1.2g)だった(当時のロシアは銀本位らしい)。物価の推移が不明なので、現在価値への換算は分からない。
・立会人(三人も必要なんだ)
(3) 「葬儀屋」
・酒手10コペイカ(チップとして)
(4) 「駅長」
・十四等官は公務員の一番低い等級。その待遇はほとんど農奴とおなじだったという。プーシキンは外務院9等官で、年俸が5,000ルーブルだった、という情報あり。
・旅行者が不平や訴願を書くための帳簿が用意されているらしい。
・往診料25ルーブル(1回分)
・五十ルーブル紙幣
・七ルーブル(馬車代、このためにわざわざ雇ったもの)
・五コペイカ銀貨(駄賃として)
(5) 「偽百姓娘」
・イギリス狂の地主(そう言うひともいたんだね)
・率先して領地を後見会議院へ抵当に出す。やりくりだと書いてあるが、趣旨がよくわからなかった。
・口髭を蓄える(訳注 当時のロシアでは軍人だけの習慣だった)
・ジャン・パウル(1763-1825)の影響が、当時のロシア文学に。
・白粉をぬたくり、眉墨をひく(この感じがよくわからなかった)
・家庭教師の報酬2000ルーブル
命名日(ここでは仲間に昼食をご馳走している。どう言う日なんだろう)
・粘土の猫(首を振るおもちゃがあるのだろう)
・五十コペイカ(手製の靴の値段)
・色の浅黒い(英語の本ならdark=黒髪、と考えるところだが、ここは肌の色を言っているのかも。ミス・ジャクソンに続いて入ってきた娘の場面。娘本人がこの場面の後に「黒ん坊みたいな顔」と言っている)

 

スペードの女王」(1834年発表)
・ここで「ファラオン」と言われているギャンブルは「ファロFaro」Wikiにわかりやすい解説があるのでぜひ参考にして欲しい。
・ルテを張る(ファロの技法らしい。訳注があるがよくわからなかった)
ソニカ勝ち(ファロの技法らしい。訳注があるがよくわからなかった)
・同じ年配の人々の死をかくす(そういう気遣いがあったのね)
・ロシアに小説があるの?(楽屋オチですね)
・稜余り(訳注で札の稜を一つ折り曲げるのは掛け金を何倍かにする宣言だが、誤って折り曲げた稜を「稜余り」という、とある。カードを折り曲げるのは(1)に出てきた「トランプの角を折る」のと同じ?)
・持ち札の背に白墨で金額を書き込む(掛け金の宣言をこういう方法で出来るんだ)