
写真はヴィクトリア朝のドア。Grokが出力したもの。
いろいろWebを探したが、ラッチキー式の錠前セットの写真が手に入らない。昔はlatchkeyで検索したらすぐ出て来たのに… 下手な絵で申し訳ないが、当面、これで勘弁してもらおう。(GrokやChatGPTにこの絵を元に綺麗にしてもらおうとしたがヘンテコ絵ばかりを出してくる。指示が悪いのかなあ… 元絵がひど過ぎるのは知ってる…)

(家の中から見た錠前の図) (家の外から見た錠前の図)
1 左は内部から見た絵。家の中からはラッチをノブで左右に動かして、鍵を開け閉め出来る。錠前は外付けなので、本体や受け金具をドアと柱に固定しているネジや釘が外れたらドアが開く。
2 右は外から見た絵。鍵穴しか見えない。ラッチキーは先っぽが中空になっていて、鍵穴のポッチに刺さるようになっている。鍵を回すと、梃子の原理で、ラッチが横に動き、開錠となる。
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では本題。
ザングウィル『ビッグボウの殺人』The Big Bow Mystery (1892) by Israel Zangwillに出て来る “the big lock” がよくわからない。
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通りに面した玄関のメインのロックシステムだと思われるのだが、ドアの外側から、鍵がなくてもロックされる(ドアを閉めたら鍵がかかるタイプ?)らしい。普段はボルトを後ろに括って?ボルトが動かないようにしているようだ。
なお、邦訳(ハヤカワ・ミステリ文庫、錠前関係以外はユーモア溢れる原文の雰囲気を伝える素晴らしい翻訳)ではthe big lockを無視、または誤魔化して翻訳しているので、まず原文、試訳、邦訳を提示しよう。
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【注意書き】微妙にネタバレしてるかも、なので、知識を入れたくない派の方は、ご遠慮くださいね。一応、大ネタにはほとんど影響が無いように配慮しているつもりです!
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以下、長篇中の全てのthe big lock(これ以降は「大錠前」と訳す)関係部分。
まず場面の簡単な解説に続いて原文。試訳はClaudeを若干修正。【 】内がハヤカワ・ミステリ文庫の邦訳。
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(a) 大家ミセス・ドラブダンプが、殺人の朝に見た玄関ドアの状況。
So Mrs Drabdump did not really feel that there had been any danger, especially as a second glance at the street door showed that Mortlake had been thoughtful enough to slip the loop that held back the bolt of the big lock.
かくしてミセス・ドラブダンプは、実際には、なんの危険もなかったのだ、と安心した。表玄関をもう一度見やると、モートレイクが十分気を利かせて、大錠前のボルトを引き戻していた輪をslipしていたとわかったのが大きかった。
【邦訳p19 大きい錠の舌を押える輪をすべりこませて: ちょっとイメージがわかないっすね…】
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(b) インクエストでの問答。下宿人モートレイクの証言。
CORONER: What time did you leave the house on Tuesday morning?
MORTLAKE: At about five and twenty minutes past four.
COROCORONER: Are you sure that you shut the street door?
MORTLAKE: Quite sure. Knowing my landlady was rather a timid person, I even slipped the bolt of the big lock, which was usually tied back. It was impossible for anyone to get in even with a latchkey.
検死官 :火曜日の朝、何時に家を出ましたか?
モートレイク:四時二十五分頃です。
検死官 :表玄関を閉めたのは間違いありませんか?
モートレイク:しっかりとね。家主が臆病な方だと知ってましたので、大錠前のboltをslipさせました。普段は、tied backしているものです。それで誰かが入るのは不可能になりました、ラッチキーを持っている人でもね。
【邦訳p32 大きい錠の舌を滑らせて… いつもは押さえてある… だれも入れなかったはず… たとえ鍵を使っても: latchkeyを「鍵」と訳すと意味不明】
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(c) インクエスト終盤での検死官のまとめ。
Mrs Drabdump did not leave her bedroom till half-past six, so that we may be sure all the various doors and windows have not yet been unfastened; while the season of the year is a guarantee that nothing had been left open. The front door through which Mr Mortlake has gone out before half-past four, is guarded by the latchkey lock and the big lock.
ミセス・ドラブダンプは六時半まで寝室を出なかった。したがって、各所の扉や窓はまだ開けられていなかったのは間違いない。そして季節柄 [筆者注: 十二月]、どこかが開け放しだったとは考えられない。モートレイク氏が四時半前に出て行った表玄関は、ラッチキー錠と大錠前によってしっかり閉じられていた。
【邦訳p51 表側のドアは錠がおりているだけではなく、差し錠までかけてある: ここもlatchkeyが消えて、わかりづらく誤解を与える文章】
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(d) 裁判で検察側による事件の概要説明。
I propose to show that the murder was committed by the prisoner shortly before half-past six on the morning of December 4th, and that the prisoner having, with the remarkable ingenuity which he has shown throughout, attempted to prepare an alibi by feigning to leave London by the first train to Liverpool, returned home, got in with his latchkey through the street-door, which he had left on the latch, (ネタバレ多いので略), went downstairs, unslipped the bolt of the big lock, closed the door behind him, and got to Euston in time for the second train to Liverpool.
私が立証しようとするのは、殺人が十二月四日の朝六時半少し前に被告によって犯されたということ、そして被告は、終始示してきた並外れた巧妙さをもって、リバプール行きの一番列車でロンドンを発つふりをしてアリバイを準備しようとした。帰宅し、on the latchの状態にしておいた表玄関から自分のラッチキーで入り、(中略)、階下に降りて、大錠前のボルトをunslipして、背後で扉を閉め、リバプール行きの二番列車に間に合うようユーストン駅へと向かった、ということである。
【前段の邦訳p147 自分の鍵を用いて、掛け金だけかけておいた表口のドアから中に入り…:ここもlatchkeyを「鍵」としている】
【後段の邦訳p147 錠前の掛け金をはずし、外に出てドアを閉め: the big lockが「錠前」に。そして鍵関係の定番「掛け金」でトドメ】
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(e) 検察側の証人である大家の証言。
Thereupon Mrs Drabdump recapitulated the evidence (with new redundancies, but slight variations) given by her at the inquest. How she became alarmed—how she found the street-door locked by the big lock—how she roused Grodman, and got him to burst open the door—how they found the body—all this with which the public was already familiar ad nauseam was extorted from her afresh.
そこでミセス・ドラブダンプは、インクエストで述べた証言を(新たなくどさが加わったが、違いはわずかだった)改めて繰り返した。いかにして不安を覚えたか----いかにして表玄関が大錠前で施錠されているのを発見したか----いかにしてグロドマンを呼び起こし、[部屋の]扉をこじ開けさせたか----いかにして遺体を発見したか----これらすべて、すでに大衆がうんざりするほど知っていることが、彼女から改めて引き出された。
【邦訳の該当部分をメモし忘れ。だがthe big lockを「鍵」としていたはず】
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さて、以上からthe big lockは
(1) 普段はボルトが輪で引き戻されて(あるいはtied back)いるが、ボルト(または輪)をslipあるいはunslipして、鍵がかかる(ボルトが出る)準備となる。
(2) 玄関ドアを閉めると鍵がかかる(ボルトが出る)。
(3) 一見しても鍵がかかってるのか、よくわからないが輪に注目するとわかるようだ。
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ここの重用語slipとは?tieも使われていることから紐を操作するイメージ。
slipには、「(締める物・留め具などから)するりと外す, 抜く; 〈結び目を〉解く」という意味がある。(unslippedがslippedと同義のように使われているがuntiedのつもりだったか?)
以上から、いろいろ考えたが、このthe big lockは
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(ア) 普段は紐でボルトを後ろに引っ張って、紐の途中にループ(輪っか)を作るなどして、どこかにひっかけて、ボルトがかからないようにしている。
(イ) ループを外すか、結び目を解くかすると、ボルトが前に動けるようになる。
(ウ) その状態でドアを閉めると、バネやスプリングなどによってボルトが飛び出し、鍵がかかる。
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と言うものだろう。
当時のフラットは元は個人のお屋敷だったものを改装して、アパートにしたものが多い。だから下宿人が夜帰ってきても入れるように、簡易カギである外付けのナイトラッチ(ラッチキー錠)を玄関に設置して、各々の下宿人にラッチキーを渡して、出入りを自由にさせているのだ。
元のお屋敷では、the big lockが玄関のメインのロックシステムだったのだろう、と想像したわけである。
フラット改装後は、普段はラッチキー錠で足りるので、逆にドアを閉めるといちいち鍵がかかってしまうthe big lockが邪魔になり、ボルトを紐で後ろに引っ張って無効化しているのだ。下宿人が全員帰ってきて、もう誰も外出しない時などは、心配症の大家はthe big lockをしっかり掛け、戸締りを完璧にしてから寝ているのだろう。ラッチキー錠はドアをくり抜いて設置するボルト式より固定の金具が弱く、ロックとしてはしっかりしていない。
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だが、ボルトを紐で引っ張っていて、普段はロックしないようにする工夫なんて、聞いたことがない。Claudeに聞いても、そんなの知らない、ザングウィルの新工夫なのでは?と言う。
でも、作者は、この機構について、上のようにごく簡単に書いていて、何の詳しい説明もない。直接この鍵を操作した下宿人(被告)の動作の描写はslipped (or unslipped) the bolt of the big lockだけなのだから、これで通用してる、ということは、当時の読者にとって当たり前のロックシステムだったのだろう。
つまり、「当たり前すぎて詳しく描写する必要もない事物」なのだ。
そしてヴィクトリア朝の人々にとっても当たり前過ぎて、他でも記録には残っていない類のものなのだろう。
こういうのが翻訳では一番困るんだよね…
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気になるでしょ?(気にならない?… ああ、そうですか…)
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でも意外なところから答えがやって来た。実に意外なところから!
(解決篇に続く! しばらくお預け)
(追記) Night latchの構造がわかる良い図を見つけた。
でも内側のレバーが九〇度回るタイプで、スライド式じゃない。構造も現代的で、ラッチキーもシリンダー錠式だ。古いやつはスライド式で、ああ、ラッチキーを回すと梃子の原理でラッチが左右に動くのか!とすぐわかる写真があった記憶があるのだが、ググっても全然出てこない…
この図を見てもわかるが、ドアに鍵が回る直径の穴を開けるだけで済み、錠前機構は完全外付けなので、元のお屋敷をフラットに改造する時の玄関の細工が最小限で済む。この方式が普及したのも頷けるよね。

(2026-5-12追記)
現在のドア錠前機構では、ラッチと言えば、これ。

ラッチはドアの仮押さえで、出たり入ったりするやつ。この図では「ラッチボルト」
上で言ってるボルトは、この図では「デッドボルト」と表記されてるやつ。鍵をかけた時だけ出て、ガッチリとドアと柱を繋いでる部品。
こういう言葉が紛らわしくてaiちゃんが正しい絵を描けなかったのかも。