
CHANSONS DE P.-J. DE BERANGER 1815-1834 CONTENANT LES DIX CHANSONS PUBLIEES EN 1847 / EDITION ELZEVIRIENNE. GARNIER FRERES. date unknown. In-32. 75 x 112 mm
メの独房に落雷があったとしても、この無害の飛来物ほど獄長を恐怖に陥れることはなかっただろう。 ≪32-62≫
彼は口をぽかんと開け、目を大きく見開き、自分の感覚が伝える全てを疑っている様子で、呆然と立ち尽くした。 ≪32-63≫
なんという不名誉! 直前には、自分の禿げ頭に賭けて、秘密は厳守されていると断言していた。彼は自分の刑務所が汚され、侮辱され、嘲笑されているのを目の当たりにした... ≪32-64≫
「手紙だ」彼は愕然として繰り返した。「手紙だ!… 」 ≪32-65≫
稲妻のように素早く、ルコックはその伝言を拾い上げ、誇らしげに指先でひっくり返した。 ≪32-66≫
「僕が言った通りだ」彼は呟いた。「連中は連絡を取り合っている!」 ≪32-67≫
若い刑事のこの喜びは、獄長の呆然とした表情を激昂に変えてしまった。 ≪32-68≫
「ああ!… 囚人どもが文通をしている!…」怒りで言葉を詰まらせ、叫んだ。「ああ! 我が看守たちは郵便屋に成り下がった! こん畜生!… 絶対許さんぞ!」 ≪32-69≫
彼はドアに向かって進んだ。だがルコックが彼を止めた。 ≪32-70≫
「何をするつもりですか、閣下!」と彼は言った。 ≪32-71≫
「私か! この施設の職員全員を集め、中に裏切り者がいると告げるのだ。そして情報を教えろ、と命令する。厳罰が必要だ。もし二十四時間以内に犯人がわからなければ、監獄の職員全員を入れ替えてやる」 ≪32-72≫
彼は、また外に出ようとした。若い刑事は、今度は止めるために、ほとんど力ずくで彼を押さえなければならなかった。 ≪32-73≫
「落ち着いて、閣下」と彼は言った。「落ち着いて、冷静に... 」 ≪32-74≫
「罰してやる!」 ≪32-75≫
「気持ちはわかりますが、まずは冷静になりましょう。犯人は、看守ではなく、雑用を任せて、毎朝配膳を手伝っている囚人の一人かも...」 ≪32-76≫
「ええい! それはどうでもいい...」 ≪32-77≫
「とんでもない!... とても大事なことです。もしあなたが騒いだり、このことを一言でも口外したら、真実を暴くのは永遠に不可能になります。裏切り者は自ら名乗り出るほど愚かではないはずですし、二度繰り返さないほどの知恵は回るでしょう。黙って、隠して、待つことにしましょう。厳重な監視体制を整え、その悪党を現行犯で捕まえるのです」 ≪32-78≫
その異議は全く正当だったため、獄長は折れた。 ≪32-79≫
「そうだな」彼はため息をついた。「我慢するとしよう… だが、このパンの団子の中身を、とりあえず見てみようじゃないか」 ≪32-80≫
しかし、この点に関して、若い刑事は同意しようとしなかった。 ≪32-81≫
「今朝は進展があるはずだ、とセグミュラ殿にあらかじめ連絡しました」と彼は告げた。「きっと、執務室で私が来るのを待っています。この包みを解く愉しみくらいは、判事にさせてあげましょう」 ≪32-82≫
監獄長は無念を身体で示した。ああ!この事を秘密にしておけるなら、どんな代償でも払ったのに。しかし、もうそんなことを考えても無駄だ。 ≪32-83≫
「わかった、では行こう、予審判事のところへ」と彼は言った。「行こう… 」 ≪32-84≫
二人はその場を離れ、道中、ルコックは、この立派な官吏に、今回の出来事を嘆くのは見当違いだと説得し続けた。捜査側にとって、これはまさに形勢を一変させる一手とも言うべき幸運です。これまで、自分が囚人たちよりも上手だと考えていたのですか? 幻想です! 囚人の創意は、これまでも、そしてこれからも、常に看守の工夫を出し抜くものでしょう?… ≪32-85≫
そして彼らが到着すると、セグミュラ殿とその書記官は飛び上がるように立ち上がった。若い刑事の顔つきから、重大な進展があったことを読み取ったのだ。 ≪32-86≫
「何が?」と判事は高ぶった口調で尋ねた。 ≪32-87≫
ルコックは言葉で答えるかわりに、あの貴重なパンの団子を机の上に置いた。判事の眼差しが、開封しなかった気遣いへの感謝を十分に伝えた。 ≪32-88≫
その中には、玉ねぎの皮紙と呼ばれる極薄の紙を丸めた小さな塊が入っていた。 ≪32-89≫
※ papier pelure d'oignon: (以下、未確認のGemini訳註) 玉ねぎの皮の紙。非常に薄く丈夫な書写用紙のこと。
セグミュラ殿はそれを広げ、手のひらで平らに伸ばした。しかし、そこに目を落とした途端、彼は眉をひそめた。 ≪32-90≫
「ああ!… 紙に書かれているのは数字だ」と彼は言って、机が激しく揺れるほど拳を叩きつけた。≪32-91≫
「予想していました」と若い刑事は静かに言った。 ≪32-92≫
判事の手からその紙片を受け取り、そこに記された数字を、コンマで区切られたそのままの順で、はっきりと聞き取りやすく読み上げた。 ≪32-93≫
«235, 15, 3, 8, 25, 2, 16, 208, 5, 360, 4, 36, 19, 7, 14, 118, 84, 23, 9, 40, 11, 99...» ≪32-94≫
※ 東都、旺文は16番目の数字118を誤って18としている。
「なんだい!...」獄長は呟いた。「見つけたはいいが、何も教えてくれん」 ≪32-95≫
「いや、そんなことないです!...」笑顔の書記官は言った。「少しの慣れと忍耐があれば、どんな暗号でも解読できますよ。それを専門にしている人だっています...」 ≪32-96≫
「全くその通りです!」ルコックは同意した。「私自身も、昔、この手の作業には、まあまあの腕前でした」 ≪32-97≫
「何と!」判事が尋ねた。「この紙の鍵を見つけられると思うんだね?」 ≪32-98≫
「時間があれば、はい、閣下」 ≪32-99≫
彼はその紙片を時計隠しに入れようとしたが、セグミュラ殿が引き止めた。せめてざっと見て、解読にどのくらい手が掛かりそうか、見当をつけて欲しいと言うのだ。 ≪32-100≫
※ gousset: 懐中時計などを入れるための小さなポケット。定訳はなさそう。
「ああ!…それはあまり意味がありません」と彼は言った。「現時点では判断できないですよ…」 ≪32-101≫
しかし彼は言われた通りにした。やってみて正解だった。ほとんど即座に表情が明るくなり、額を叩きながら叫んだのだ。≪32-102≫
「判った!」 ≪32-103≫
判事も、獄長も、ゴゲも、驚きと、そしておそらくは疑念の混じった叫び声を同時にあげた。 ≪32-104≫
「賭けても良いくらいです… 」とルコックは慎重に付け加えた。「被告人と共犯者は、私の見込み違いでなければ、二冊の本という方法を使ったのです。仕組みは単純です。 ≪32-105≫
※ le système du double livre: 暗号界隈では公式用語? ググっても見当たらず。要調査。
まず、通信する者たちはある特定の本を使おうと合意して、それぞれが同じ本の同じ版を入手します。 ≪32-106≫
さて、近況を伝えたいと思ったら、どうするのでしょうか? ≪32-107≫
彼は本を無作為に開き、まずページ番号を書き留めます。 ≪32-108≫
あとは、そのページの中で、自分の言いたい単語を探すだけです。最初に使いたい単語がページの二十番目にあれば、二十という数字を書き、再び一、二、三と数え始め、適切な単語を見つけるまで続けます。その単語が六番目にあれば、六という数字を書き、伝えたい内容がすべて揃うまでこれを繰り返すのです。 ≪32-109≫
これでもう、このような手紙を受け取った相手がどうすべきか、お分かりですね。指定されたページを探し、それから数字に対応する単語を拾っていくだけです... ≪32-110≫
「これ以上ないほど明快だ」判事は得心した。 ≪32-111≫
「私が今持っているこの手紙が」ルコックは言葉を継いだ。「自由の身である二人の間で交わされたものなら、それを読み解こうとするのは気狂い沙汰です。極めて単純な方法こそが、他人の好奇心を挫く唯一の手段なのです。なぜなら、合意された本を見抜ける洞察力など、この世には存在しません」 ≪32-112≫
でも、今は事情が違います。メは囚人であり、所有している本はただ一冊、ベランジェの歌集だけです。その本を探しに行きましょう... ≪32-113≫
間違いなく獄長は興奮していた。 ≪32-114≫
「私が自分で取ってこよう!」と彼は口を挟んだ。 ≪32-115≫
しかし、若い刑事が身振りで彼を制止した。 ≪32-116≫
「閣下、何よりも」ルコックは注意した。「細心の注意を払ってください。メに、自分の歌集に誰かが触ったと気づかせてはなりません。もし彼が散歩から戻っていたなら、適当な口実で、また連れ出してください… そして、この歌集を我々が使っている間は、彼を外に留めておくように」 ≪32-117≫
「ああ!… 任せておけ」と獄長は答えた。 ≪32-118≫
彼は出て行った。その急ぎようといったら… 十五分もしないうちに戻ってきて、小さな三十二折り判の本を誇らしげに振りかざしていた。 ≪32-119≫
※ in-32: (以下、未確認のGemini訳註) 三十二折判は、19世紀の出版界で、本の物理的なサイズ(判型)を指す用語。非常に小さく、現代の感覚で言えば「手のひらサイズ」や「ポケット版」高さ 10cm 〜 12cm 程度。
<当時の判型>
> in-folio: 1回折(巨大な本)
> in-8: 3回折(一般的な単行本サイズ)
> in-16: 4回折(小型本)
> in-32: 5回折(極小型本・ポケット版)
震える手で、若い刑事は235ページを開き、数え始めた。 ≪32-120≫
そのページの15番目の単語は「JE(私は)」、その3つ先は「LUI(彼または彼女に)」、続く8番目は「AI(〜した; 次の動詞と合わせて過去完了を意味する)」、25番目は「DIT(言った)」、2番目は「VOTRE(あなたの)」、16番目は「VOLONTÉ(意志)」だった。 ≪32-121≫
※ Internet Archiveで当時のBéranger歌集を色々試してみたが、合致する本は無かった… 残念ながらInternet Archiveに三十二折り判は登録されていなかったし、そもそも volonté という語を含む詩が、ベランジェ全集を調べても存在しない。もし、実在のこの版が存在するなら、可能性があるのは解説部分のページなのだろう。
こうして、わずか六つの数字だけで、意味が浮かんだ。 ≪32-122≫
«Je lui ai dit votre volonté....» 「私はあなたの意志を彼(または彼女)に伝えた...」 ≪32-123≫
この感動的な体験に立ち会った三人は、思わず拍手を送らずにはいられなかった。 ≪32-124≫
「ブラボー、ルコック!…」と判事は言った。 ≪32-125≫
※ Bravo: (以下、未確認のGemini訳註) 当時は、現代の日本人がコンサートで叫ぶような気取った感じではなく、もっと泥臭い「よっ、日本一!」や「やったな!」に近いエネルギーを持っていた。
「もうメに百スーも僕は賭けない」と書記官は思った。 ≪32-126≫
しかしルコックは、なおも数字を数え続けていた。やがて、誇らしげな虚栄心で声を震わせ、その手紙の解読後の全文を読み上げた。被告宛の内容は次の通りであった。 ≪32-127≫
«Je lui ai dit votre volonté, elle se résigne. Notre sécurité est assurée, nous attendons vos ordres pour agir. Espoir! Courage!...»「私はあなたの意志を彼女に伝えた。彼女は受け入れた。私たちの安全は確保された。行動するため、あなたの指示を待っています。希望を!勇気を!…」 ≪32-128≫
※ 初出紙の連載第47回目(1868-7-12)の終わり
(つづく)
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