
Daumier "Les gens de justice"連作(1848)より。調べが行き届かず、誰がgreffierで誰がhuissierだか、よく判らない。三番目の絵では、法廷では書記官も黒法衣と帽子姿である。背広のが執達吏なのかなあ…
XXVI
セグミュラ殿は、自分の職業を惜しみなく愛し、全身全霊を捧げ、持てるエネルギー、知性、洞察力のすべてをその職務に注ぎ込むような司法官の一人であった。 ≪26-1≫
予審判事として、彼は真実の追究に対し、未知の病気と闘う医師のような不屈の情熱と、美の探求に身を削る芸術家のような熱狂をもって臨んだ。 ≪26-2≫
それゆえ、担当したシュパン婆の酒場の闇深い事件は、何にも代え難い抗えない魅力で、彼の心を捉えていた。 ≪26-3≫
事件の中には、興味を刺激する全ての要素があった。犯罪の重大性、状況の不透明さ、被害者と加害者を包む不可解な謎、そして正体不明の被告が見せる奇妙な態度。 ≪26-4≫
物語的な興趣にも事欠かなかった。足跡を晦ませた二人の女、実体の掴めない共犯者の存在。 ≪26-5≫
そして、結末が全く判らないことも、さらなる魅力となった。自尊心は決して場所を譲らぬものであり、セグミュラ殿は、困難が大きければ大きいほど、成功の誉れも高まると考えていた。そして、ルコックのような助手がいた。まだ駆け出しだが、その並外れた能力と、素晴らしい適性を彼は見抜いていた。 ≪26-6≫
そのため、過酷な一日の終りにあたっても、執拗に襲う懸念から逃れようとか、翌日に先送りするという考えはなかった。 ≪26-7≫
二倍の速さで夕食を平らげ、コーヒーを飲んだ後、新たな熱意を抱いて仕事に挑んだ。 ≪26-8≫
自称、旅芸人への尋問記録を彼は持ち帰っていて、それを読み耽る姿は、包囲した城塞の周囲をうろつきながら、攻撃の力を集中すべき弱点を見極めようとしている工兵のようであった。≪26-9≫
全ての回答を分析し、一つひとつの言い回しを吟味した。防御体制を粉砕し得る地雷、勝利が得られる質問を滑り込ませられる隙間を探していた。 ≪26-10≫
夜の大部分はこの作業に費やされた。それでも、いつもより早く起きるのは、彼にとって苦ではなかった。 ≪26-11≫
八時には、身なりを整え、ひげを剃り、書類を整理し、ショコラを飲み干して、出かける準備ができていた。 ≪26-12≫
自分を苛む焦燥が、他人の血管では沸き立ってはいない、ということを、彼は失念していた。だが、その事実にすぐ気づかされた。 ≪26-13≫
彼が到着したとき、パリ司法宮はようやく目覚め始めたところだった。開いていない扉すらあった。廊下では、まだ眠そうな執達吏や給仕たちが、街着を法衣に着替えながら、体を伸ばしていた。 ≪26-14≫
※ garçons de bureaux: 「給仕」とした。
他の者は、シャツの袖をまくり、掃き掃除や埃払いに精を出していた。日々積み重なってゆく塵の砂丘を舞い上げぬよう、細心の注意を払いながら作業していた。 ≪26-15≫
※ dunes de poussière: 「埃の砂丘」≪34-110≫にも関連文あり。(以下、未確認のGemini訳註) 官僚機構の古臭さや、停滞した時間の経過を象徴するガボリオらしい皮肉な表現。
更衣室の窓から、貸衣装係の女たちが弁護士の法衣を振っているのが見えた。今は、悲しいほどみすぼらしい黒い布だが、法廷では雄弁な言葉と議論の群れが溢れ出す、魔法の衣となるのだ。中庭では、書記官室や登記所の開場を待つ若い代書生たちが、悪ふざけに興じていた。 ≪26-16≫
※ 貧しい下級法官や吏員にとって、法衣は高くついたのだろう。一部を除いてレンタルだったのか!未調査。
帝国検事に相談があったセグミュラ殿は、まず検察庁に向かった。まだ誰も来ていなかった。 ≪26-17≫
苦々しい思いで、彼は自分の執務室に閉じこもり、時計を見つめながら、針の動きの遅さに今更ながら驚いていた。 ≪26-18≫
九時十分、笑顔の書記官ゴゲが姿を現した。だが、待ち受けていたのは「ああ! やっとお出ましですか!」という言葉で、これで善良な予審判事の機嫌が如何なるものか、彼には明らかだった。 ≪26-19≫
実は、ゴゲはいつもより早く来たのだ。彼自身、事件への好奇心に突き動かされ、急いで出勤していた。 ≪26-20≫
彼は謝罪し、弁明しようとしたが、セグミュラ殿は、彼が弁じようという気を奪い去る勢いで、にべもなくその口を封じてしまった。 ≪26-21≫
「やれやれ」と彼は思った。「今朝は風向きが悪いな」 ≪26-22≫
突風に抗わず背を丸め、淡々と黒いラストリンの腕抜きをはめ、小さな机に向かって、羽ペンを削ったり、書類を準備したりして、仕事に没頭しているように見せた。 ≪26-23≫
心の奥では、彼はへそを曲げていた。昨晩、ゴゲ夫人と謎めいた被告について話しているうちに、妙案が浮かび、それを判事に披露するのも悪くないと考えていたのである。 ≪26-24≫
そんな事をする場合ではなかった。普段は冷静沈着で、真面目で、几帳面、そして感情を内に秘める人物であるセグミュラ殿は、見違えるほど変わっていた。彼は執務室を端から端まで歩き回り、立ち上がり、座り、立っては座り、身振り手振りを交え、とにかくじっとしていられないようだった。 ≪26-25≫
「確かに」と書記官は思った。「もつれた糸は解けていない。メの方は万事順調だ!」 ≪26-26≫
その時、彼は嬉しく思っていた。恨めしさのあまり、被告側に肩入れした。 ≪26-27≫
九時半から十時の間に、セグミュラ殿は五回を下らず執達吏のベルを鳴らし、そのたびに同じ問いを繰り返した。 ≪26-28≫
「治安局所属の捜査官ルコック殿が来ていないのは間違いありませんか?… 確認してください… 彼が使いを寄越さないとは思えません。私に手紙を書くはずです」 ≪26-29≫
その都度、面食らった執達吏はこう答えざるを得なかった。 ≪26-30≫
「誰も来ていません。手紙もありません」 ≪26-31≫
判事の怒りは頂点に達した。 ≪26-32≫
「まったく理解できん」と彼は呟いた。「こっちは燃える炭の上なのに、あの捜査官は平気で待たせるのか… 一体どこへ行った?…」 ≪26-33≫
※ sur des charbons ardents: 「ジリジリする」「じっとしていられない」の慣用句
最後に、彼は執達吏に、ルコックが近辺の酒場(エスタミネ)などにいないか見てくるよう命じた。彼を捜し出し、すぐ直ちに連れてこい。 ≪26-34≫
執達吏が出ていくと、セグミュラ殿は落ち着きを取り戻したようだった。≪26-35≫
「貴重な時間を無駄にしている」と彼はゴゲに言った。「私は、シュパン後家の息子を尋問することに決めた… 何もしないよりましだ。彼を連れてくるよう伝えてくれ。ルコックが既に連行命令書を回しているはずだ…」 ≪26-36≫
十五分も経たないうちに、 ポリットは予審判事の執務室に入った。 ≪26-37≫
頭からつま先まで、防水布のキャスケット帽から派手な刺繍の室内履きに至るまで、それはまさに、哀れな美徳のトワノンが情熱的な眼差しを注いでいた肖像の男そのものだった。 ≪26-38≫
ただ、その肖像は美化しすぎていた。 ≪26-39≫
写真は、この悪党の顔の卑劣な狡猾さ、不遜な薄ら笑い、泳いでいる卑怯で獰猛な目つきを捉えることはできなかった。また、衰え色あせ鉛色を帯びた顔色も、不安を誘うしきりに動くまぶたも、短く尖った歯を覆うように結ばれた薄い唇も、再現できなかった。 ≪26-40≫
少なくとも、彼が他人を欺き通すのは、難しそうだった。 ≪26-41≫
一目見れば、その真価がわかってしまう。 ≪26-42≫
予備的な質問に対し、三十歳でパリ生まれと告げると、彼はこれ見よがしなポーズで、次を待った。 ≪26-43≫
しかし、事件の核心に触れる前に、セグミュラ殿はこの小悪党の自信を少し崩そうとした。 ≪26-44≫
そこで彼はポリットが置かれた境遇を厳しく突きつけ、彼の態度や供述によって、関与した事件の判決が大きく左右されることをほのめかした。 ≪26-45≫
ポリットは、投げやりで、どこか皮肉めいた表情で聞いていた。 ≪26-46≫
実際、彼はその脅しをまったく気にしていなかった。事前に相談していて、そんなに重くならないと判っていた。せいぜい六か月の禁錮刑で済むと聞いていた彼にとって、一か月程度の増減など、どうでも良かった。 ≪26-47≫
判事は、このならず者の目にその感情が出ているのを見て、話を切り上げた。 ≪26-48≫
「司法は」と判事は言った。「あなたの母親の酒場に出入りしていた常連客について、あなたからの情報を期待している」 ≪26-49≫
「たくさんいるんでね、旦さん」と、その不良は、かすれ、引きずるような、品のない声で答えた。 ≪26-50≫
※ m'sieu: 本訳では崩して「旦さん」とする。
「ギュスターヴという名の者は知っているかね?」 ≪26-51≫
「いいえ、旦さん」 ≪26-52≫
もし万一、ポリットが真実を述べているなら、深追いは余計に警戒させる恐れがあった。そこでセグミュラ殿はこう続けた。 ≪26-53≫
「少なくとも、ラシュヌールは覚えているはずだね?」 ≪26-54≫
「ラシュヌール?... その名前は初めて聞きました」 ≪26-55≫
「ちゃんと答えたまえ!... 警察は多くを知っている」 ≪26-56≫
だが、その不良は眉ひとつ動かさなかった。 ≪26-57≫
「本当のことを言っているんです、旦さん」と彼は主張した。「嘘をつく理由があるでしょうか?...」 ≪26-58≫
突然、荒々しく扉が開かれ、彼は言葉を切った。美徳のトワノンが子供を抱いて現れた。 ≪26-59≫
夫の姿を見て、不幸な女は歓喜の声を上げ、素早く近づいてきた... しかしポリットは後ずさり、凄まじい眼光で彼女をその場に釘付けにした。 ≪26-60≫
「ラシュヌールという男を俺が知っていると言うような奴、そいつは俺の敵だ!」彼は荒々しい口調で言った。「そんな出鱈目を言う者は、死んでも許さない。そう、死んでもだ… 絶対許さない!」 ≪26-61≫
※ 初出紙の連載第39回目(1868-7-4)の終わり
(つづく)
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