
Honoré Daumier, « L'interrogatoire », Le Charivari, 20 octobre 1845
「寄り道5: 予審判事マニュアル1836pt2」では、調書作成時には制服を着て実施すること、と書いてあった(第七章第二節)。連載23(1897年のイラスト)では予審判事は普通の背広である。
尋問調書がどれほど忠実であっても、そこから正確な様相を読み取ることなどできない。冷え切った灰から、燃えていた炎の熱気を感じ取れないのと同じだ。 ≪21-60≫
言葉は細部まで書き留められる。しかし、情熱の動き、表情、計算された沈黙、身振り、抑揚、疑念や憎悪に満ち交錯する視線、そして、死闘で抱く凄まじい苦悩は、とても表現できない。 ≪21-61≫
彼の鋭い言葉に被告が、もがいている間、予審判事は歓喜に震えていた。 ≪21-62≫
「彼は弱っている」と判事は思った。「分かるぞ、彼は諦めつつある、もう私のものだ!…」 ≪21-63≫
しかし、即座に決着するという期待は、次の瞬間、消え去った。この驚くべき敵は、一時の弱さを克服すると、さらに力強い新たな活力で、毅然と背筋を伸ばしていた。 ≪21-64≫
これほど鍛え抜かれた精神を打ち負かすには、何度も攻撃を仕掛けなければならないことを、彼は悟った。 ≪21-65≫
期待を裏切られた苛立ちから、さらに荒々しい声で、彼は続けた。 ≪21-66≫
「あくまでも、明白な事実を認めないのですね」 ≪21-67≫
殺人犯は、鋼の無表情に戻った。弱さを見せた自分を痛切に後悔しているようだった。その瞳には、地獄を思わせる不敵な光がぎらぎらと輝いていた。 ≪21-68≫
「どんな明白な事実だ?…」と彼は眉をひそめて言った。「警察がこしらえた筋書きは確かにもっともらしい。否定するつもりはない。だが、真実も同じくらい、ありそうな話だろう。あんたは、シュヴァルレ通りで、小柄な金髪の女性二人を乗せた御者の話をしているが… その女たちが、あの忌々しい酒場にいた女たちだという証拠が、どこにある?」 ≪21-69≫
「警察は雪の上の足跡を追ったのです」 ≪21-70≫
「夜、ぬかるみで寸断された地を通り抜け、道に沿ってか。小雨が降り始め、雪解けが始まっていたのに!… 驚くべき捜査能力だ!」 ≪21-71≫
彼はルコックの方へ腕を突き出し、相手を押し潰すような軽蔑の口調で付け加えた。 ≪21-72≫
「捜査官が、その程度の証拠で他人の首を刎ねろと要求するんだな。ご立派な自信か、さもなくば、醜い出世欲か!」 ≪21-73≫
ペンを走らせながら、笑顔の書記官は観察していた。 ≪21-74≫
「命中だ!...的の真ん中!...」と彼は思った。 ≪21-75≫
※ Pan!... dans le noir!: 射的ゲーム? 的の中心が黒く塗られているのだろう。
確かに、その非難は痛烈であり、 若い刑事の腹の奥底を揺さぶった。それが図星で、あまりに的確だったので、彼は自分の立場を忘れ、怒りに震えながら立ち上がった。 ≪21-76≫
「その状況だけなら意味は無い」と彼は激しく言った。「だが、それは長い鎖の、たった一つの輪だ... 」 ≪21-77≫
「黙って、捜査官殿」と判事は遮った。 ≪21-78≫
そして被告の方を向いて続けた。 ≪21-79≫
「司法は」と彼は続けた。「警察が収集した容疑を、検証し評価した上でなければ、採用しません」 ≪21-80≫
「どうでもいい!… 」と男は呟いた。「その御者にぜひ会いたい」 ≪21-81≫
「ご心配なく、彼はあなたの面前で、供述を繰り返しますよ」 ≪21-82≫
「そうか!… それなら満足だ。竈の中みたいに真っ暗でどうやって人の顔を見られるのか、ぜひ聞いてみたいね。その立派な人相書きの提供者は、夜の方が昼より良く見える猫の血筋に違いない」 ≪21-83≫
彼は言葉を切り、突然ひらめいたように、額を叩いた。 ≪21-84≫
「なんて俺は愚かなんだ!...」と彼は叫んだ。「女たちのことで、心配する必要なんてなかった。あんたは女たちが誰だか知ってるんだから。そうだろう、閣下。御者は女たちを家まで送り届けたらしいからね?」 ≪21-85≫
セグミュラ殿は、自分の考えが見透かされたと感じた。検察がまさに明らかにしたいと強く望んでいる点を、被告は意図的に曖昧にしようとしているのでは? ≪21-86≫
比類なき役者であるこの男は、真に迫った純真な響きでその言葉を口にした。しかし、皮肉は明らかであり、彼が嘲笑したのは、この点について何も恐れることがないと気づいたからだ。 ≪21-87≫
「もしあなたが相変わらず立場を変えないのなら」と判事は続けた。「共犯者、つまり... 仲間による援助も否定するんでしょうね」 ≪21-88≫
「閣下、俺の言うことを信じてくれないのなら、否定しても意味がないだろう? さっき、俺の雇い主のシンプソン殿を架空扱いしたばかりじゃないか。では、そのいわゆる共犯者についてはどう言うんだ? ああ!…そいつをでっち上げた捜査官たちは、随分とそいつをお人好しに作ったもんだ。一度は逃亡に成功したが不満だったのか、そいつは再び手中に戻って来る。お歴々は、そいつが俺と共謀し、その後、酒場の女将とも打ち合わせたと主張する。どうやって出来る? 俺が放り込まれた小屋から、そいつを引きずり出して、きっと老婆と一緒にまた閉じ込めたんだろうな...」 ≪21-89≫
書記官ゴゲは、記録しながら感心していた。 ≪21-90≫
「こいつは」と彼は思った。「実に回転が速い野郎だ。陪審員の前で弁護士の舌を借りる必要なんかない」 ≪21-91≫
「結局」男は続けた。「俺に不利な証拠とは何だ?... 瀕死の男が口にしたラシュヌールという名前、溶けかけた雪の上の足跡、御者の証言、酔っ払いに関する漠然とした疑惑。それだけ?... 話にならん」 ≪21-92≫
「もういい!」とセグミュラ殿が遮った。「今はずいぶん大きな態度ですが、先ほどの動揺はそれ以上に大きかった。その原因は何です?」 ≪21-93≫
「その原因!…」殺人犯は怒りに震え、叫んだ。「その原因? わからないのか? 無実の罪で命がけで戦っている俺が、あんたに情け容赦なく、凄まじい拷問を受けているんだ。 何時間も執拗に追い詰められ、まるでギロチン台に横たわっている気分だ。一言発するたびに、この言葉が刃のバネを外すのでは、と怯えているんだ。俺の動揺に驚いたというが、俺はこの数時間の間に、二十回も首筋に冷たい刃を感じた! いいか… 最悪の仇敵にさえ、こんな地獄の苦しみを願わんぞ」 ≪21-94≫
彼は確かに凄まじい苦しみを味わっていた。それは、いかに強い意志でも隠しおおせない身体的反応として現れていた。髪は汗でぐっしょりと濡れ、大きな汗の粒は、青ざめた頬を伝い、彼は時折、それを袖で拭っていた。 ≪21-95≫
「私はあなたの敵ではありません」セグミュラ殿は穏やかに言った。先ほどの被告の言葉を自分への非難と受け止めたのである。「予審判事は、被告人の味方でもなければ敵でもない。ただ、真実と法の味方であるに過ぎません。私が求めているのは、無実の者や罪人を見つけ出すことではなく、ただ事実を明らかにすることです。あなたが何者であるかを知らねばならない…… そして、私は必ず突き止めます」 ≪21-96≫
「おい!死ぬほど言ってるだろう!俺はメだ!」 ≪21-97≫
「違います」 ≪21-98≫
「では、俺は一体誰だ?... 変装した高貴な人?... ああ、そうだったら良かった。もしそうなら、正当な身分証明書があるから、それを見せて、俺は解放される... わかってるはずだよ、お役人さん、俺はあんたと同じように無実なんだ...」 ≪21-99≫
判事は机を離れて、被告人から二歩の暖炉に背を預けて立った。 ≪21-100≫
「そう強情を張るなよ」と彼は言った。 ≪21-101≫
そしてすぐに、口調と態度を一変させ、社交界の人間が同輩に話しかける完璧な礼儀正しさで、こう付け加えた。 ≪21-102≫
「どうか、ムッシュー、私が十分な洞察力を持っていると自慢させてください。あなたが完璧に、かつ痛ましくも演じている難しい役柄の裏に、優れた知性と稀有な才能を備えた、高潔な人物が隠れていると見抜くことが出来たのですから...」 ≪21-103≫
※ monsieur: ここは適切な日本語を思いつけず「ムッシュー」
ルコックは、この急激な変化が殺人犯を動揺させているのを、はっきりと見てとった。 ≪21-104≫
彼は笑おうとしたが、その笑いは喉で、すすり泣きのような陰鬱な音となって消えた。二粒の涙が、目からこぼれ落ちた。 ≪21-105≫
「これ以上、あなたを苦しめるつもりはありません、ムッシュー」と判事は続けた。「何しろ、言葉の機微を競い合っても、私はあなたに敵いません。それは謙虚に認めます。私が再び攻撃に出るのは、あなたを打ちのめすのに十分な証拠を手にしたときになるでしょう...」 ≪21-106≫
彼は少し間を置いてから、ゆっくりと、一語一語を強調しながら、こう付け加えた。 ≪21-107≫
「ただし、そのときは、私が今、あなたに向ける配慮は、もう期待しないでください。司法とは人間的なものです、ムッシュー。情熱に狂った善良な人間が堕ちていく深淵の深さを、法は知っている。だからこそ、特定の罪に対しては寛容でもありうるのです。私の職務に背かぬ限り、あらゆる配慮を約束しましょう… お話しください、ムッシュー… ここいる捜査官を退席させましょうか? 書記官に何か用事を頼みましょうか?…」 ≪21-108≫
※ 予審判事マニュアルでは、書記官不在の聴取内容は無効と明記している(第九章第四節1)。
彼は黙った。 ≪21-109≫
この最後の、努力を尽くしたこの試みの成果を、彼は待っていた。 ≪21-110≫
殺人犯は、魂の奥底まで見透かそうとするような視線を彼に投げた。彼の唇が動いた。ついに喋るかと思った…しかし、違った。彼は胸の前で腕を組んで、呟いた。 ≪21-111≫
「閣下、あなたは誠実な方だ。あいにく、俺は先ほど言った通り、ただの貧しく、しがない男。メ、芸人だ。客寄せの口上を言ったり、お世辞を振りまいたりする... 」 ≪21-112≫
「では、あなたの望み通りにしましょう」と判事は悲しげに言った。「書記官が尋問調書を読み上げます... 聞いてください」 ≪21-113≫
ゴゲはすぐに読み始めた。被告人は何も言わずに聞いていたが、最後に署名することを拒否し、「魔導書のような邪悪な罠」を恐れていると述べた。 ≪21-114≫
※ traîtrise du grimoire:
※ refusa de signer: 予審判事マニュアル1836を読むと、署名を拒否したことを記録すれば、調書として成立するようだ(第九章第四節11)。
その後すぐ、彼を連れてきたパリ衛兵たちが、彼を連れ去った... ≪21-115≫
※ 初出紙の連載第32回目(1868-6-27)の終わり
(つづく)
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